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Think outside the box

MAKE JAPAN GREAT AGAIN

大統領選挙に見るアメリカ社会の学歴による分断

エマニュエル・トッドは、トランプ現象や Brexitの根底に、高学歴集団と大衆の断絶があると分析しています。

mainichi.jp

かつて、社会の衝突は、経済的な地位の違いが原因で起きました。しかし、今は教育レベルの違いが原因です。教育レベルがその人の経済的な将来を決めてしまうからです。

現代では非常に多くの人々が高等教育を受けるようになりました。ところが、彼らは自分たちが社会的に高い立場にいると思い、大衆を軽蔑的に見ています。そして「上から目線」でポピュリズムを語っている。私は高学歴の大集団が、ある種の愚かさを生んでいると思うのです。*1

これは、民主党が高学歴知識専門職の"professionals"の集団となって一般労働者を見下すようになったことに警鐘を鳴らしたトーマス・フランクの分析と一致しています。

Listen, Liberal: Or, What Ever Happened to the Party of the People?

Listen, Liberal: Or, What Ever Happened to the Party of the People?

"Professionals," …, are an enormous and prosperous group, the people with the jobs that every parent wants their child to grow up and get.

Professionals are a high-status group, but what gives them their lofty position is learning, not income. They rule because they are talented, because they are smart. *2

同様の分析は他にもあります。

blogos.com

民主党は、これまでのようにリベラル派のエリートの管轄下にあってはならない」と、サンダースは続ける。「彼らは敵ではないが、民主党は大衆に開かれているものに変容する必要がある–労働者、低所得者や若者の痛みを感じることのできる政党でなくてはならない」

www.huffingtonpost.jp

ダウサットが「社会のエリート(政治家や企業幹部)が自分たちをないがしろにしている感覚(elite neglect)」を問題にしている点に着目したい。これは改革派保守の重要な論点だ。

http://www.nytimes.com/2016/11/15/opinion/when-reportage-turns-to-cynicism.html

…, the white working class — who have suffered serious economic and social dislocation. Many feel powerless and resent elites and journalists, whom they find arrogant and condescending.

そこで、今回のアメリカ大統領選挙と学歴の関係について見てみます。

50州とワシントンDCの51選挙区について、18歳以上人口に占める大卒以上(bachelor's degree or higher)人口の割合(以下、大卒率)と、民主・共和両党の得票に占める民主党の得票率を分布図にします。民主党ヒラリー・クリントン勝利、が共和党ドナルド・トランプ勝利です。*3

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大卒率がを分ける「学歴フィルター」になっているようです。*4

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大卒率の全米平均は27%ですが、の平均は31%、の平均は24%と大差があります。ヒラリー支持者の「トランプ支持者はバカ」との批判に一理はあるわけです。*5

51選挙区を大卒率の順に並べると、1位から17位まで一色です。

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所得水準でも高所得世帯が多い選挙区は、少ない選挙区はの傾向が明瞭です。

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人種・民族に関してはこのような指摘がありました。

jbpress.ismedia.jp

民主党は、非白人の優遇政策「アファーマティブ・アクション」を金科玉条にすることで、階級に基づく政党から少数民族の連合体への転換を確定させた。実力主義の世界でのし上がる究極の手段である大学入学への支援を受けられるか否かが、経済状態ではなく肌の色で決まることになった。

今回の選挙結果からも、人口急増中のヒスパニック/ラティーノの割合が大きいとになりやすい傾向も見て取れます。大卒率は低いもののニューメキシコ州とネバダ州は、ヒスパニック人口の割合が1位と5位です。

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非ヒスパニック白人の割合順に勝敗を色分けするとまだら模様になりますが、学歴・所得とは違って両端がになるところが注目されます。民主党がエリートとマイノリティの連合体になったことが示唆されます。

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学歴による社会の分断というトッドとフランクの分析は当たっているようです。

参考

www.huffingtonpost.jp

オースティンさんに路上でインタビューしていた最中、気になることがあった。通りすがりの(ヒラリー支持者と思われる)人から、オースティンさんに対して 「レイシスト!(人種差別主義者)」との罵声が飛んできたのだ。

「ヒラリーやその支持者たちは、私たちのことを「差別主義者」と罵倒し、国を分断していると訴えているが、どちら側が分断しているのか?彼女こそが、他者に対する共感というものを全く持ち合わせていないではないか?」

www.huffingtonpost.jp

「トランプ派は全く信用できない」と言い放ち、コミュニケーションを取ろうとしないリベラル層の姿勢は、ますます互いの不信感、対立を深めることに加勢してしまっている。

「我々は優秀→我々は正しい→バカどもは逆らうな」という観念がリベラルエリートに浸透していることを示しています。カルト化したリベラルエリートにとって、自分たちの教義*6に逆らう大衆は異端・異教徒なので、十字軍のように「殲滅こそ正義」なのです*7一神教イデオロギーなので、話し合い解決はほぼ不可能でしょう。*8

十字軍の思想 (ちくま新書)

十字軍の思想 (ちくま新書)

カルトの拠点は高学歴者を養成する有名大学です。日本の大学では考えられない事態でしょう。

私の在籍する大学院も例外でない。トランプ氏が選出された結果を受けて、学部長や教授が動揺を隠さず、多くの授業や休み時間が、「セラピー」の時間に当てられてきた。

落胆、失望、不安、憤り、怖れーー。学生ばかりか教員たちもまた、トランプ氏の暴言に傷つけられた自身の価値観や存在を改めて再確認し、同じ価値観の人々との連帯を深めることで、この現実をなんとか乗り越えようとしてきた。

P・D・ジェイムズは8年前に「同じ価値観の人々との連帯を深める」ことによる社会の分断リスクやポリコレカルトの危険性を指摘していましたが、2016年はその懸念が的中した年になったようです。

www.telegraph.co.uk

"Mutual respect and understanding and recognition of our common humanity cannot be nurtured in isolation. And in our relationships we are bedevilled by the cult of political correctness."

It would be "unfortunate" if the police became "enamoured" of political correctness, which she described as "a pernicious if risible authoritarian attempt at linguistic and social control".

totb.hatenablog.com

totb.hatenablog.com

totb.hatenablog.com

*1:[引用者注]中国人の移民がチャイナタウンを形成するように、集団が大きくなると日常生活が集団内で完結するため、他の属性の人々との交流が減り、集団の独自性が強まります。「高学歴の大集団」は、大衆から遊離した独自の教義を信奉するカルトと化してきたわけです。

*2:下線・強調は引用者、以下同。

*3:得票数はNew York Timesの直近の集計より。

*4:民主党と共和党の得票比は全米では51:49ですが、大卒率が全米平均より上では59:41で民主党の圧勝、下では45:55で共和党の圧勝になります。

*5:日本の「構造改革」で土建業が叩かれたのは、都会のリベラルが「土方のおっさん」のような低学歴の肉体労働者を下に見ていたからでしょう。東日本大震災においても、自衛隊に比べると土建業者の奮闘はほとんど称賛されませんでした。

*6:グローバリゼーション+ポリティカル・コレクトネス→世界の「浄化」

*7:あるいは「ポア」。

*8:キリスト教保守派に反リベラルエリートが多いことは、大統領選挙が一種の宗教戦争でもあることを意味しているとも言えそうです。