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日本のサービス業の低生産性の原因

日本のサービス業の生産性が低いとされる理由について考察します。

www.sankeibiz.jp

www.sankei.com

サービス業の特徴は労働集約型であることです。サービス業の人件費の対売上高比率は製造業の2倍です。

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サービス業の生産性についての冨山和彦の説明です。*1

上昇気流に乗るのは誰だ!

上昇気流に乗るのは誰だ!

生産性とは、どれだけのインプット(投入資源)で、どれだけのアウトプット(付加価値)を得ることができたかです。基本的に労働集約型産業ですから、インプットは要は投入労働時間であり、アウトプットはその時間に対して払ってくれるおカネの多寡です。

サービス業の生産性の国際比較の問題点は、同じアウトプットでも国によって払ってくれるおカネ(価格)が異なることです。製造業のアウトプットは貿易財なので世界中で一物一価が近似的に成り立ちますが、貿易できない種類が多いサービス業では、同じサービスでも国によって価格が大きく異なり得るため、価格が安い国では生産性が低く算出されてしまいます。医療などへのヘルスケア産業がその一例です。アメリカの医療サービスは著しく高額なので、アウトカムが優れていなくても生産性は高く算出されます。

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竹中平蔵は前掲書で

生産性とは、まさに賃金ですからね。経済学で習いますが、実質賃金は労働の限界生産性によって決まります。

と述べていますが、これは何らかの要因によってサービス業の賃金が押し下げられれば、生産性が低く算出されてしまうことを意味します。

冨山はサービス業が縮小する製造業の「代替雇用の受け皿」となったと指摘しています。

これはどういう雇用かというと、低賃金で長時間の雇用です。でも労働生産性が低いがゆえに、雇用吸収力はあった。つまり、結果的には、そういうゾンビに近い状態の低生産性のサービス産業企業――中小企業の90%はサービス産業ですから――が、製造業の雇用力から外れてしまった人たちの雇用を支えることになったわけです。

これは国税庁民間給与実態統計調査」からも裏付けられます。1990年代半ばから、製造業は人員削減/給与水準維持、サービス業は人員増加/給与水準低下が進みました。

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製造業の給与所得者数の減少とサービス業の平均給与の低下が対応しています。

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相対的に高賃金の製造業から大量の労働者が吐き出される→「誰でもできる」低賃金職種で雇用拡大、という図式です。企業にとっては設備投資による生産性向上よりも労働者を「一銭五厘」的に働かせることが効率的なので、ブラック労働やデフレ商法が蔓延したわけです。

アメリカ合衆国の奴隷制度の歴史 - Wikipedia

19世紀前半のアメリカ合衆国の富は黒人奴隷の労働の搾取に負うところが大きかった。

1990年代後半以降の日本は、奴隷に頼らず工業化を進めたアメリカ北部から、奴隷労働に頼った南部に近づいたとも言えます。

www.bloomberg.co.jp

潤沢な資金を持つ強者対安い賃金で働かされる弱者ー。国際通貨基金IMF)は日本の企業と被雇用者の関係をこのようにみる。労働市場のこの問題に対策を講じなければ日本全体が敗者になると、対日審査責任者のリュック・エフェラールト氏が指摘した。*2

南部(Confederate States of America)は敗者になりました。

給与水準の低下についてはこの記事を参照してください。

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冨山が分析するように、

観光業は平均賃金の低い産業ですが、頑張れば頑張るほど労働生産性が下がってしまって、さらに低賃金の産業になってしまう。

専門技能がなくてもとりあえず働ける産業ほど「頑張り」に走るため、生産性が相対的に低下してしまうことを意味します。実際、日本生産性本部のレポートでは、アメリカを100とした日本の各産業の生産性が

  • 情報通信業74.0
  • 製造業全体69.7
  • 金融48.0
  • 卸売・小売業38.4
  • 飲食・宿泊34.0

とされています。多くの日本人の直感とは逆に、アメリカが得意とする情報通信や金融の生産性が相対的に高く、日本人が丁寧なサービスを得意とする飲食・宿泊の生産性が相対的に低く算出されるわけです。

冨山は

かつての加工貿易立国モデルでは、大企業が儲かると、そこから一次下請け、二次下請けの中小企業へと、波及効果が比較的ダイレクトに発生しやすかったのですが、いまは、そのような産業連関が途切れてしまいました。

と述べていますが、サービス業の低生産性は、サービス業に問題があるというよりも、大企業の賃金抑制&内部留保積み上げ(守銭奴化)によって国内経済が「慢性貧血状態」になった結果ということです。*3

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www.sankei.com

失われた〈20年〉

失われた〈20年〉

「企業は、株主にどれだけ報いるかだ。雇用や国のあり方まで経営者が考える必要はない」

「それはあなた、国賊だ。我々はそんな気持ちで経営をやってきたんじゃない」

94年2月25日、千葉県浦安市舞浜の高級ホテル「ヒルトン東京ベイ」。大手企業のトップら14人が新しい日本型経営を提案するため、泊まり込みで激しい議論を繰り広げた。論争の中心になったのが「雇用重視」を掲げる新日本製鉄社長の今井敬と、「株主重視」への転換を唱えるオリックス社長の宮内義彦だった。経済界で「今井・宮内論争」と言われる。

サービス業の(計算上の)高生産性が必ずしも望ましくないことにも留意が必要です。

ケンブリッジ式 経済学ユーザーズガイド: 経済学の95%はただの常識にすぎない

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質の切り下げによって高い生産性を実現したと思われるサービスもある。米英のような国での小売り産業の生産性向上は大部分、店員が少ないこと、遠くまで運転して来店しなければならないこと、配達時間の遅さなど、まさに質の低下によってもたらされた。

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*1:この本は「改革派」の考え方がよく分かるのでお勧めです。「東京大学を民営化しろ」などと主張されています。

*2:強調は引用者、以下同。

*3:経済の血液=マネーの不足の主因は、日本銀行の金融緩和不足でも政府の財政赤字不足でもなく、企業が守銭奴化したことです。企業が「金は天下の回り物」を否定しているわけです。