この一節を読んで思ったことです。

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バブルもデフレも完全に防ぐことはできない。しかしその悪影響をできるだけ小さくすることはできる。その手段は「財政政策」と「金融政策」、そして「長期的な構造改革」である。その舵取りをゆだねられているのが内閣総理大臣であり、日本銀行総裁である。
1990年代後半以降、日本経済はデフレと名目ベースで持続的に成長できない状態に陥りました。金融政策・財政政策・構造改革の「三本の矢」のアベノミクスも、循環の上昇局面の域を脱していません。
デフレの主因とされたのが日本銀行の金融緩和不足ですが、異次元の金融緩和がいわゆるリフレ派の想定通りに進まなかったことは明らかです。
リフレ政策が想定通りに進まないと、今度は消費税率引き上げを画策した財務省への批判が強まっているようです。
しかしながら、財務省は上から降りてくる基本方針に従っていることはあまり注目されていないようです。11 月 29 日に閣議決定された「平成 29 年度予算編成の基本方針」では、
政府は、引き続き、「経済再生なくして財政健全化なし」を基本とし、600 兆円経済の実現と平成 32 年度(2020 年度)の財政健全化目標の達成の双方の実現を目指す。
と、基礎的財政収支(プライマリーバランス)の2020年度までの黒字化が堅持されています。財政政策を批判するのであれば、財務省よりもその上の内閣総理大臣を批判するべきでしょう。
なお、プライマリーバランスは小泉内閣の「今後の経済財政運営及び経済社会の構造改革に関する基本方針」(2001年6月26日)に登場します。
本格的な財政再建に取り組む際の中期目標として、まずは「プライマリーバランスを黒字にすること(過去の借金の元利払い以外の歳出は新たな借金に頼らないこと)」を目指すことが適切である。……世代間の公平を図る上で重要である。……債務残高が対GDP比で増大することを止めるためには、まずは、元利払い以上の借金を新たに行わないことが必要条件となる。

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じつはプライマリーバランスという考え方は、2001年に「骨太の方針」で私が持ち込むまで、政府内にはありませんでした。*1
クルーグマンが提唱する「爆発的な財政出動」ができないように仕掛けがされているわけです。
不思議なのは、金融政策と財政政策に比べると構造改革のマイナス面がほとんど注目されないことです。経済の血液であるマネー不足の「主犯」が、日銀でも財務省でもなく企業であることは、資金循環からも明らかなのですが。

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「構造改革」と、それに伴って急速に普及した新自由主義的な思想の跋扈、さらにはアメリカ型の市場原理の導入によって、ここまで日本の社会がアメリカの社会を追いかけるように、さまざまな「副作用」や問題を抱えることになるとは、予想ができなかった。
アメリカと同様に、日本でも着実に格差は拡大しはじめた。いわゆる「勝ち組」と「負け組」の二極分化である。
日銀批判は、デフレやブラック労働がネオリベラル構造改革の「副作用」であることに国民が気づかないようにするための情報操作だったのではと勘繰りたくなります。その目的は、二極分化をさらに進めるためでしょうか。
参考
アメリカの大統領選挙では、知的専門職のリベラルエリート(勝ち組)と、一般労働者(負け組)の対立が鮮明になりました。Thomas Frankはアメリカの知的専門職エリートを"professional class"または"creative class"と表現しています。

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Professionals are a high-status group, but what gives them their lofty position is learning, not income. They rule because they are talented, because they are smart.

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クリエイティブ・クラス(創造的なプロフェッショナルの知的労働者)という概念が出てこないといけないのです。*2
とにかく日本は、デフレを克服しないとすべてが始まらない。そして、デフレの主因は「金融政策」にありました。