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Think outside the box

MAKE JAPAN GREAT AGAIN

アトキンソンの誤診と失った20年

デービッド・アトキンソンが生産性に関する事実誤認をしています。*1

toyokeizai.net

アトキンソンが「日本の生産性の伸びがほぼ止まったのは1990年代から」の根拠とするグラフがどのように作成されたのか不明ですが、アトキンソン流に「生産性=GDP/人口」とすると、日本の1人当たりGDPは名目では伸びが止まったものの、実質では増加を続けています。*2

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OECDの統計では、日本の生産性上昇率はG7の中でもアメリカに次ぎます。

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アトキンソンは事実に基づかない議論を展開していることになります。従って、対策も見当違いです。

日本とアメリカで大きく異なるのは、生産性ではなく賃金の上昇率です。

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その結果、日本の単位労働コストは大幅に低下しています。これは、企業が生産性上昇を賃金に反映させなくなかった(労働者に還元しなくなった)ことを意味します。1人当たりGDPが実質では増えるが名目では増えなくなったのはこのためです。*3

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アトキンソンの根本的な誤解は、日本企業が利益を否定しているという点にあります。*4

「アメリカのような極端な利益至上主義は人を幸せにしない」と言われます。その通りです。しかし、アメリカの極端な「利益至上主義」に対する批判を、日本の「利益否定・生産性軽視」の口実にしてはなりません。

日本企業は1997~2003年頃のリストラクチャリングによって極端な利益志向に「転向」しています。敗戦によって軍国主義者が平和主義者に一変したようなものです。

従属国家論 (PHP新書)

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つい三、四年前までは「日本型経済システム礼賛」だったものが、まったく手のひらを返したように、「日本型経済システム批判」になってしまったのです。

1945年の敗戦によって生じたこともこういうことだったのでしょう。……「国民総転向」です。わずか半年ほど前には、鬼畜米英で天皇陛下万歳だったのが、瞬く間に、アメリカさんありがとう、民主主義万歳へと逆転したのでしょう。

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アトキンソン

私は、政府が公的年金などを通じて「日本一のアクティブ・シェアホルダー」となり、各社に生産性を上げるように強制するべきだと考えています。生産性を上げられない、無駄な内部留保を活用できない経営者は、有能な経営者が現れるまで首を切るべきでしょう。

と主張していますが、企業が利益(率)志向を強めた結果が極端な人件費抑制と国内投資への消極的姿勢です。内部留保は無駄に積み上がっているのではなく、需要拡大と高リターンが見込まれる海外投資(投資有価証券取得)に向かっています。

給料を抑えるだけという単純な戦略ではなく、「本物の経営」をするようにプレッシャーをかけるべきです。そのプレッシャーによって、経営者は株価を継続的に上げる経営をせざるをえなくなります。各社が努力をして、生産性を上げます。その努力の積み重ねによって、GDPは増えるのです。

1953年にGeneral Motorsのウィルソン社長は

I thought what was good for our country was good for General Motors, and vice versa. The difference did not exist.

と述べましたが、現代のグローバルエリートはこのような観念とは真逆で、完全に「転向」しています。近年の欧米を見れば分かるように、グローバリゼーションとは政治家や企業経営者が自国(民)を第一に考えなくなる、あるいは自国民が不幸になったとしてもそれに何の道徳的責任を感じたりしなくなることです。*5

失われた〈20年〉

失われた〈20年〉

「企業は、株主にどれだけ報いるかだ。雇用や国のあり方まで経営者が考える必要はない」*6

グローバル資本主義なるものの背後には、情報優位に立つエリートやロビー活動で政治に影響力を持つ一部勢力が勝てる「格差拡大機能」が内包されているのである。

自己の利益を最大化することで、かりに他者が不幸になったとしてもそれに何の道徳的責任を感じたりしない「合理的精神」こそが、自由競争の勝者に求められる資質であると言っても過言ではないだろう。

グローバル化した企業が絶対リターンの最大化を目指す「本物の経営」をするようになれば、人口減少が確実な日本から海外に軸足を移すとともに、「世界最高の質の日本の労働者」を徹底的に買い叩くことは必然です。経営者にプレッシャーをかければかけるほど、企業は国内支出を抑制して労働者を搾取します。その努力の積み重ねによって、GDPは増えなくなるのです。*7

この誤診によって、日本は20年を失ったのです。もう取り返しがつきません。

蟹工船・党生活者 (新潮文庫)

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小林多喜二 蟹工船

資本家は「モルモット」より安く買える「労働者」を、乃木軍神がやったと同じ方法で、入り代り、立ち代り雑作なく使い捨てた。鼻紙より無雑作に!

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「誤診」が事態を悪化させているのは少子化も同じです。

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*1:人は信じたいものを信じるとはいえ、「日本は最低」「経営者は無能」を鵜呑みにしてしまう人が多いのは残念です。このようなプロバガンダに乗せられた大衆がネオリベラル「改革」を支持してしまうのでしょう。大衆が好みそうな「労働者の質は世界一なのに日本が最低なのは経営者が無能だから→だからネオリベラル改革を」というストーリーを考えたアトキンソンは商売上手です。

*2:GDPは2005年基準

*3:これが「デフレの正体」。

*4:いまだに日本企業が「日本型資本主義」を続けていると思っているアトキンソンには、まるで「天動説」を信じ続けている人を見たような滑稽さを感じます。

*5:自国民を植民地の現地人と「平等」に扱うようなもの。ポリコレ的には「正しい」あり方です。

*6:[引用者注]オリックス宮内義彦社長(当時)の発言。

*7:「日本経済・日本国民のため」を基準にすると経営者は無能ですが、「株主のため」を基準にすると、世界最高の質の日本の労働者を安く働かせて史上最高益を挙げているので有能になります。