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アメリカの保護主義と日本の「金解禁」

自由貿易と産業の空洞化について簡単に考察します。

gendai.ismedia.jp

さて、ここで視点を少し変えてみたい。トランプ氏の主張を支えている「アメリカ・ファースト」という考え方についてだ。

氏は、製造業が国外に出て行ってしまっていることを問題視しており、それを国内に引き戻したい。それが「アメリカ・ファースト」という利己的に響く言葉に集約されてこともあり、ドイツも日本もけしからんと思っている。

しかし、我が身を振り返るなら、実はドイツも日本も、アメリカと同じ問題を抱えているのではないか。たとえば両国に見られる地方の没落は、産業の空洞化がすでに進んでしまった証拠ではないだろうか。

日米貿易摩擦が激しかった30年前の下村治の分析がそのまま当てはまります。*1

日本は悪くない―悪いのはアメリカだ (文春文庫)

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日本には、自由貿易は死んでも守り抜くべきだと思う人が多いらしく、アメリカの保護貿易主義の動きはどんな犠牲を払ってでも防がなければならない、という声が強い。これは明らかに間違いだ。

アメリカに保護貿易主義の法律が成立しても、それはそれでよいではないか。

アメリカの国民経済というものを前提にして考えれば、二億四千万のアメリカ国民にいかにして就業の機会を与えるか、というのが最優先の課題である。*2

敢えて言うなら保護主義こそ国際経済の基本ではないだろうか。まず自国の経済を確立するには弱い部分を保護する必要がある。

アメリカの草の根で流れている保護主義はそういうものである。国内の就業機会を安定的に維持するための動きであり、当然の要求なのである。

製造業が重要なのは、経済成長の牽引役であるためです。

ケンブリッジ式 経済学ユーザーズガイド: 経済学の95%はただの常識にすぎない

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理論的には、農業やサービス業を含め、どんな経済活動で生産能力を強化しても経済開発は達成できる。だが実際には、大半の場合において、経済開発とは工業化を通じて、いやより正確には工業部門の開発を通じて達成される。

製造業はサービス業などに比べて生産性向上が容易なので、製造業の生産性上昇→賃金上昇→他産業の賃金を引き上げ→経済全体の所得増へと至るわけです。*3

経済全体に占める製造業の割合は、日本はアメリカほど低下していませんが、

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製造業が経済全体に与える影響は日本の方が深刻です。アメリカの製造業の人件費の伸びは21世紀に入ってから急減速したものの、増加基調は維持しています。*4

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一方、日本は1993年度のピークから22%も減少しています。

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生産性向上を賃金上昇に反映させない&雇用減少が原因です。

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「製造業の生産性上昇→賃金上昇→所得増」が起点となる経済成長のメカニズムが壊れてしまい、逆に所得減少の牽引役へと変貌しています。人件費抑制と海外シフトがグローバリゼーションを反映したものであることは明らかです。

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トランプに名指しされたトヨタ自動車も、生産と設備投資の海外シフトを進めています。2004/3期~2010/3期は設備投資が国内:海外≒6:4でしたが、2011/3期~2016/3期は5:5です。アベノミクス円安がグローバル企業には与えた影響は微々たるものに過ぎません。

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空洞化を止めるための保護主義あるいは反グローバリゼーション政策の緊急度が高いのはアメリカよりも日本ということになりますが、日本はトランプとは逆に「もはや国境や国籍にこだわる時代は過ぎ去りました*5」とグローバリゼーション全開へと突き進んでいます。

1930年1月の金解禁は「暴風雨に向かって雨戸を開け放つ」ようなものに終わりましたが、歴史は繰り返すようです。

下村治の前掲書の最後には

忘れてはならない基本的な問題は、日本の一億二千万人の生活をどうするか、よりよい就業の機会を与えるにはどうすべきか、という点なのである。

とありますが、日本の為政者・エリート・リベラルたちがすっかり忘れてしまったことは間違いありません。*6

より詳しくは下の記事で。

totb.hatenablog.com

totb.hatenablog.com

*1:第四章「自由貿易は絶対的に善か」はお勧めです。

*2:[引用車中]現在のアメリカの人口は3億2千万人です。人口増加率の差が、日本から製造業が流出していく根本原因となっています。

*3:その副作用が「ボーモルのコスト病」。

*4:グラフの非連続は産業分類の変更によるもの。

*5:安倍総理大臣

*6:グローバリズムリベラリズムを信奉する欧米のエリートと同じ。