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Think outside the box

MAKE JAPAN GREAT AGAIN

トランプの保護主義宣言とソ連の崩壊

ドナルド・トランプ大統領が就任演説で「アメリカ第一」のために保護主義に転換することを宣言しました。

January 20th 2017, will be remembered as the day the people became the rulers of this nation again.

From this day forward, it’s going to be only America First. America First. *1

Protection will lead to great prosperity and strength.

エマニュエル・トッドの7年前の予言が的中したようです。

toyokeizai.net

かつて、旧ソ連の崩壊を予言したところ、実際に崩壊しました。アメリカ帝国主義も予言どおり崩壊するでしょう。今回は条件付きですが、最新著作の中では「もし自由貿易が続くなら、民主主義がなくなるでしょう」と指摘しています。

つまり、民主主義を残したいなら、自由貿易を片付けなければならない、という選択が必要なのです。

興味深いのは、ソビエト連邦とアメリカの「崩壊」に共通点があることです。

トッドは 1976年の著書『最後の転落』で、ソ連システムがロシア共和国の「出血大サービス」に支えられていることを指摘していました。

最後の転落 〔ソ連崩壊のシナリオ〕

最後の転落 〔ソ連崩壊のシナリオ〕

ロシア人は、自分たちの帝国の保持と民族としての誇りの満足のための高い代償を、生活水準を犠牲にして支払っていることになる。彼らはソ連邦の内部で嘲りの的となっているのだ。カフカス人やバルト人にとって、ロシア人とは、特に食い物にされる、機転の利かないスパルタ人なのだ。

ソ連システムの核心部は、まさしくロシア共和国、過重搾取され、麻痺してしまったその人民に他ならない。

ソ連解体直前の1991年の経済企画庁『年次世界経済白書』でも、ロシア共和国の出血大サービスの仕組みが分析されていました。

IMF世界銀行OECD欧州復興開発銀行の4機関がソ連経済に関して行った調査報告書によれば、共和国間の貿易収支を国際価格で調整した場合、ロシア共和国は最大の経済的利益を得る一方、バルト3国を始め他のほとんどの共和国は経済的損失を被ることとなる 。これは従来、ロシア共和国が石油、電力といった燃料・エネルギーを国際価格の3分の1程度の低価格で他共和国へ供給してきたことによる。すなわちソ連では、共和国間分業体制の下での価格は、経済力の弱い共和国への援助という政策的意図が折り込まれていたため、しばしば生産コストとは無関係に安く設定され、国際価格とかい離したものとなることが多かったという事情がある。

共和国別にその財政構造をみると、ロシア共和国は、全共和国から連邦への移転84.6億ルーブルのうち50.9億ループル(60.2%)を負担する一方、連邦から全共和国への移転112.1億ルーブルのうち29.4億ルーブル(26.2%)しか受け取っておらず、同共和国の移転収支は21.5億ルーブルの赤字となっている。

ソ連システムの頂点にいたノーメンクラトゥーラが、ロシア以外の共和国や衛星国をつなぎとめるために、ロシア人民に生活水準を犠牲にすることを強いていた、という構図です。

トランプは就任演説で

Washington flourished – but the people did not share in its wealth.

Politicians prospered – but the jobs left, and the factories closed.

The establishment protected itself, but not the citizens of our country.

For many decades, we’ve enriched foreign industry at the expense of American industry

と述べましたが、

とすれば構図は同じです(エリツィン⇔トランプ?)。アメリカ人民は「そこそこ稼げる職の海外移転→海外製品の消費」という形で、かつてのロシア人民のように他国に貢献してきたわけですが、その忍耐が限界に達したのが今回の大統領選挙だったということでしょう。*2

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現在のアメリカ中心のグローバル経済システムがソ連システムの拡大版だとすれば、その解体をアメリカ人民が肯定的に捉えても不思議ではありません。

トランプは

We will follow two simple rules: Buy American and Hire American.

We will seek friendship and goodwill with the nations of the world – but we do so with the understanding that it is the right of all nations to put their own interests first.

と、各国の「国益追及・自国第一」を当然視していますが、これは下村治の認識と共通します。この30年前の文章は、現在に書かれたものとしても十分通用します。

日本は悪くない―悪いのはアメリカだ (文春文庫)

日本は悪くない―悪いのはアメリカだ (文春文庫)

観念的で、それこそ“空洞化”している自由貿易というお題目に振り回されているのが日本政府だ。アメリカの議会で保護貿易法案が上程されそうだとなると、もう世界経済は壊滅するといわんばかりの大騒ぎをする。

敢えて言うなら保護主義こそ国際経済の基本ではないだろうか。まず自国の経済を確立するには弱い部分を保護する必要がある。

世界経済は独立国が対等な形で交易することによって成立するのだとすれば、これは当然の結論であろう。

グローバルエリートや主要メディアに袋叩きにされるトランプが、慧眼の士のトッドや下村と同じ認識をしているというのは興味深いことです。

一方、日本のエスタブリッシュメントはトッドが言うところのウルトラ・リベラリズムを貫いてトランプと対立する構えです。*3

www.sankei.com

安倍晋三首相は米国のトランプ新政権発足を受け、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)など自由貿易の重要性をトランプ氏に訴えかけるとともに、日米同盟の強化を推進したい考えだ。

www.sankei.com

www.sankei.com

www.sankei.com

2013年にNYSEで「もはや国境や国籍にこだわる時代は過ぎ去りました」と語るなど、「反・日本第一」「日本人労働者よりもウォール街の投資家優先」の本音を滲ませる安倍首相とトランプ大統領が経済分野において水と油であることは確実です。

先進国が自国第一主義の英米と、ウルトラ・リベラリズムネオリベラリズムリベラリズム*4)の日独に分かれ、「ドイツ帝国」に従属している国々で「極右*5」によるレジスタンスが活発化している現状は、第二次大戦の連合国vs枢軸国を想起させます。*6

日本はイタリアのように鞍替えした方が良さそうに思いますが。

参考

トランプが問題視する製造業雇用の海外流出(空洞化)は日本でも深刻です。

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安倍首相は「製造業雇用を国内に取り戻す」よりも外人観光客にカネを落としてもらう「観光立国」を志向しているようですが、それでは"Make Japan Strong Again"は実現できないでしょう。

追記

トッドは次のように語っています。 

AERA(アエラ) 2017年 1/30 号 [雑誌]

AERA(アエラ) 2017年 1/30 号 [雑誌]

「一つの国というより帝国と化した米国に主導された時代、グローバリゼーションが国を乗り越えるという夢が絶頂に達し、そして墜落していくのを見た。一つの時代の終わりと、別の時代の始まりを示している」

totb.hatenablog.com

totb.hatenablog.com

totb.hatenablog.com

totb.hatenablog.com

totb.hatenablog.com

デモクラシー以後 〔協調的「保護主義」の提唱〕

デモクラシー以後 〔協調的「保護主義」の提唱〕

自由貿易は、民主主義を滅ぼす

自由貿易は、民主主義を滅ぼす

自由貿易という幻想 〔リストとケインズから「保護貿易」を再考する〕

自由貿易という幻想 〔リストとケインズから「保護貿易」を再考する〕

グローバリズムが世界を滅ぼす (文春新書)

グローバリズムが世界を滅ぼす (文春新書)

*1:強調は引用者、以下同。

*2:大日本帝国も朝鮮や満州が負担になりました。

*3:日本側のTPP参加要請は、トランプには「アメリカ人民を食い物にしたい」に聞こえるでしょう。

*4:社会・政治的なリベラリズムを徹底すると(←political correctness)、格差拡大を正当化するネオリベラリズムや各国の独自性・独立性を否定するハイパーグローバリゼーションそのものになってしまいます。米欧で凶暴化するリベラルは、異教徒・異端の殲滅を図った十字軍と化してきたようです。愛を説くキリスト教が大量殺戮を繰り返したのだから、寛容を説くリベラルが非寛容なのも不思議ではありません。

*5:「極右」とはnational identityを重視する自国第一主義者のことです。

*6:ウルトラ・リベラリズムを卒業しようとする米英と、周回遅れで染まった日独の対立。あるいは米英露vs日独中。