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シムズ理論は聞き流してリフレ論争に終止符を

リフレ派の教祖・浜田宏一を改宗させたことで注目されたクリストファー・シムズ教授のインタビューが1月27日の読売新聞と29日の日本経済新聞に掲載されていましたが、日本経済の不調の根本原因を理解していないため、見当違いな話に終始しています。*1

根本原因とは、企業に株式市場を向いた経営をさせる一連の制度変更が、供給と需要が相互作用的に増加していく「経済の好循環*2」を壊してしまったことです。まさにインセンティブは銃弾であり、日本経済(特に家計)を瀕死の状態にしてしまったのです。*3

ヤバい経済学 [増補改訂版]

ヤバい経済学 [増補改訂版]

経済学は突き詰めるとインセンティブの学問だ。…経済学者はインセンティブが好きである。…インセンティブは銃弾であり、てこであり、鍵である。ほんのちょっとしたことだが状況を変えてしまえる大変な力を持つ。

「株式市場を向いた経営」とは、このようなものです。

失われた〈20年〉

失われた〈20年〉

「企業は、株主にどれだけ報いるかだ。雇用や国のあり方まで経営者が考える必要はない」*4

企業の目的は利潤(profit)を最大にすることである。

そのために、コストをなるべく小さくしようとする。コストを最小にするのが目的である。

その「成果」はROEの急上昇として実現しています。「デフレだからROEが高まった」わけではないでしょう。*5

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ROE急上昇の前段階として、1990年代末から社内留保+減価償却費が設備投資を上回るようになっています。

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同時期から「コストを最小にするのが目的」に従って人件費の異常な抑制が始まっていますが、固定資産はペースダウンしたものの増加を続けています。*6

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設備投資が低調なのに固定資産が増えているのは、「投資」の主体が有形固定資産から有価証券に変化したためです。つまり「投資から貯蓄へ」が生じたわけです。

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これは日本銀行「資金循環」では資金不足から資金余剰への変化となります。*7

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資金過不足の変化はGDPの10%に達します。この企業による「超緊縮」が日本経済の成長を妨げる主因です。

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詳しくは後日の記事に回しますが、この企業行動の激変は「株式市場を向いた経営+グローバリゼーション+人口減少」の複合作用と考えられます。*8

なぜローカル経済から日本は甦るのか (PHP新書)

なぜローカル経済から日本は甦るのか (PHP新書)

世界のグローバル経済圏のプレイヤーにとって、日本はもはや魅力的な市場ではなくなった。市場の大きいところに立地したいと考えるグローバル企業にとって、日本は立地的にそれほど有利な場所ではなくなった。*9

トヨタ自動車の2002年と2016年の生産台数を比べると、国内生産は10万台減、海外生産は400万台増です。*10

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財政政策の失敗は

  • 法人減税&消費増税→企業の貯蓄促進&家計の消費抑制
  • 公共投資の大幅削減

です。主犯が企業、従犯が政府ということになりますが、無実の日銀に濡れ衣を着せて「真犯人の隠蔽」に貢献したのがリフレ派です。

クルーグマンを始祖とするリフレ政策(インフレ目標へのコミットメント+国債と日銀当座預金の大規模交換)が無効であることは量的・質的金融緩和によって明らかになったのだから、日本の事情をよく知らない外人経済学者の思い付きを有り難く拝聴するのはもう止めて、構造改革の失敗を総括するべきでしょう。*11

totb.hatenablog.com

日本経済を壊す会計の呪縛 (新潮新書)

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デフレの真犯人 ―脱ROE〔株主資本利益率〕革命で甦る日本

デフレの真犯人 ―脱ROE〔株主資本利益率〕革命で甦る日本

延々とリフレ論争を繰り返す人たちを見ると、人間は一度「こうだ」と思い込むと視点を変えて考えられなくなることがよく分かります(認知バイアス*12。だから冤罪が後を絶たないのでしょう。

*1:ピロリ菌を知らない医者が胃炎・胃潰瘍について「ストレスが云々」と語っているようなもの。ピロリ菌に相当するのが企業、ストレス云々に相当するのが金融・財政政策。

*2:生産性上昇→賃金上昇→家計所得増加→家計消費増加→設備投資増加→生産性上昇→・・・

*3:「経済学者はインセンティブが好き」なのに、構造改革の日本経済への影響が検証されないのは不思議です。検証するとまずいことでもあるのでしょうか。

*4:オリックス・宮内社長(1994年当時)の発言。

*5:グラフは財務省「法人企業統計」の全産業(金融業、保険業を除く)より。

*6:ミルグラム実験が示したように、経営者は株式市場(株主)という「権威」に服従して労働者を搾取するようになったわけです。

*7:GDPは1993SNA。

*8:1999年の時点で、日本銀行内部ではこれらが日本経済にマイナスの作用を及ぼす可能性が指摘されていました。

*9:冨山和彦が指摘する「GとLの二重構造」は、アメリカ大統領選挙Brexit、ヨーロッパの「極右」躍進にも通じます。

*10:2016年のデータが発表されたためグラフを差し替え済み。

*11:QQEの成果に「円の過大評価修正」がありますが、現状は「日本の大安売り」になっており、これ以上の円安は逆効果です。

*12:「モデルと数式を使って難しいことを考える知的な自分」に酔っている人も少なくないようです。ところで、リフレ派は男が圧倒的に多いように思えますが、実際のところはどうなのでしょう。