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Think outside the box

MAKE JAPAN GREAT AGAIN

ネオリベラリズムが頑健な理由

中野剛志が『富国と強兵』で新自由主義ネオリベラリズム)の頑健さについて問題提起しています。

富国と強兵

富国と強兵

この新自由主義というイデオロギーは、その1970年代後半以降の勢力拡大の速度も恐るべきであるが、その頑健さもまた驚くべきものがある。

なぜ、新自由主義は1980年に前後して、かくも急速に台頭し得たのであろうか。しかもその失敗にもかかわらず、なぜ、依然として退場しないのであろうか。

中野は従来の「階級の経済的利害」説を紹介した上で、独自の地政経済学的分析を行っていますが、ここでは別の角度から考察してみます。

ネオリベラル勢力が頑健な直接の理由は、政治において左派/リベラルの支持があることです。

ヨーロッパでは、ハイパーグローバリゼーション(モノ・カネ・ヒトの地球規模での自由な移動)を強力に推し進めるネオリベラル勢力に「極右」が反対し、その極右を右派と左派が共同戦線を張って封じ込める構図が続いています。*1

  • フランス:極右・国民戦線⇔右派・共和党&左派・社会党
  • ドイツ:極右・AfD⇔右派・CDU&左派・SPD

アメリカでも、ウォール街シリコンバレー&ハリウッドに支援された民主党ヒラリー・クリントンが、"America first", "Americanism, not globalism"のドナルド・トランプと得票を二分しました。

ナンシー・フレイザーも、左派/リベラルがネオリベラルと合流して進歩的ネオリベラルになったと分析しています。フェミとネオリベは同じ穴の狢です。

www.dissentmagazine.org

In its U.S. form, progressive neoliberalism is an alliance of mainstream currents of new social movements (feminism, anti-racism, multiculturalism, and LGBTQ rights), on the one side, and high-end “symbolic” and service-based business sectors (Wall Street, Silicon Valley, and Hollywood), on the other.*2

In their eyes, feminists and Wall Street were birds of a feather, perfectly united in the person of Hillary Clinton.

フレイザーは左派をネオリベから再分離して1960-70年代の"new left"の流れを引き継ぐ"new new left"に再生することを主張していますが、これは左派の本質からして不可能と考えられます。左派とネオリベの合流は必然だからです。

左派/リベラルが極右と対立するのは、極右の「自国/自民族第一主義」が多様性(多文化共生)や反差別と相容れないためです。

…, the country buzzed with talk of “diversity,” “empowerment,” and “non-discrimination.”

Rejecting globalization, Trump voters also repudiated the liberal cosmopolitanism identified with it. 

左派が性別、民族、人種など生まれつきの属性での差別に反対する根底には、「人間の本性は変わり得る」「人間に生まれつきの差異は無い/差異は環境によって作られる」という信念があります。

現実的な左翼に進化する 進化論の現在 (シリーズ「進化論の現在」)

現実的な左翼に進化する 進化論の現在 (シリーズ「進化論の現在」)

人間の本性は変わりうるものだと信ずるのは左派にとっては今も昔も重要なことである。それによって人間社会をかなり変えることができるという望みが見えて来るからだ。

左派は存在する限りずっと誰もが仲良くて、協力しあい、自由で平和に生きていける社会を追求してきたのだ。

一方、ハイパーグローバリゼーションを推し進めるネオリベラリズムも、金を稼ぐのであれば個人の属性は問わない「白猫黒猫論」的な思想です。「金の前の平等」思想であるネオリベラリズムは、先天的(遺伝的)属性による区別を認めない左派/リベラルと極めて相性が良いわけです。

日本のフェミニストの代表格・上野千鶴子

バックラッシュ!  なぜジェンダーフリーは叩かれたのか?

バックラッシュ! なぜジェンダーフリーは叩かれたのか?

男女共同参画社会は、新自由主義的なベクトルとフェミニズムとの妥協の産物だ」というのは、100パーセント正しいと思います。

と述べています。

フレイザーのような伝統的左派にとってネオリベラルは敵ですが、極右=自国民第一主義という別の敵(旧勢力)が復活してくると、敵の敵は味方になるのです。*3

左派とネオリベラルの合流が必然であるなら、中野の疑問「新自由主義は1980年に前後して、かくも急速に台頭し得たのであろうか」には「1960-70年代に社会分野に浸透したリベラリズムが経済分野にも波及したから」と答えられます。リベラルの自由・解放の理念を経済活動において実現するのがネオリベラリズムです(emancipation → deregulation)。

ネオリベラリズムがハイパーグローバリゼーションを通じてミドルクラスの没落・貧困層増大・経済格差拡大をもたらしていることは明らかですが、左派がフレイザーが期待するように動か(け)ないのは、結果(事後)の平等を実現するためには機会(事前)の平等を犠牲にしなければならないためです。

リベラルが多様性や反差別の信念を貫くと、

  1. 男女分業・移民制限/経済格差は小さい
  2. 男女共働き(女の社会進出)・移民受け入れ/経済格差は大きい

の二者択一において、必ず2を選ぶことになります。これは日本の左派・上野千鶴子小熊英二の主張そのものです。リベラルにとっては、夫が大黒柱になっていた一億総中流社会よりも、夫の給料だけでは生活できない水準まで賃下げして夫婦共働きする(→女の社会進出)社会の方が望ましいのです。

president.jp

正規雇用者の給料を下げて、夫に600万円払っているのなら、夫に300万円、妻に300万円払うようにすれば、納税者も増えます。

www.asahi.com

男性が年収800万円を長時間労働で稼ごうとするよりも、男女が適正な労働時間で400万円ずつ稼ぐ方が、現代の経済状況に適合している。

ネオリベラリズムが頑健な理由には、リベラリズムに染まった人々が主に大卒以上の高学歴であることもあります。彼らは高卒以下の工場労働者のようにハイパーグローバリゼーションの負の影響を受けにくいことに加えて、リベラル&ネオリベラルに追いつめられる人々を見下す快感を得られるためです。ヒラリー・クリントンが選挙戦中にトランプ支持者の半分を"racist, sexist, homophobic, xenophobic, Islamaphobic"の"basket of deplorables"と呼び、支持者も拍手喝采したことが好例です。*4

下のグラフは、クリントンが主に大卒者の割合が大きい選挙区で勝利したことを示しています(青がクリントン勝利、赤がトランプ勝利、黄緑線は全米平均)。

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mainichi.jp

彼らは自分たちが社会的に高い立場にいると思い、大衆を軽蔑的に見ています。そして「上から目線」でポピュリズムを語っている。私は高学歴の大集団が、ある種の愚かさを生んでいると思うのです。

Listen, Liberal: Or, What Ever Happened to the Party of the People?

Listen, Liberal: Or, What Ever Happened to the Party of the People?

Professionals are a high-status group, but what gives them their lofty position is learning, not income. They rule because they are talented, because they are smart.

上野千鶴子も前掲書において「コミュ障のオタク男は子孫を残さずに死ね」という主旨の発言をしていますが、このような暴言を吐いても何ら問題にならないのは、高学歴エリート、特に大手メディアにリベラリズムが浸透しているからでしょう。*5

ギャルゲーでヌキながら、性犯罪を犯さずに、平和に滅びていってくれればいい。そうすれば、ノイズ嫌いでめんどうくさがりやの男を、再生産しないですみますから。

ただし、そうなった場合、彼らの老後が不良債権化するかもしれませんね。ところが、彼らが間違って子どもをつくったらたいへんです。 

アメリカでも事情は同じです。リベラルによれば「バカな男」の苦しみは努力を怠った自己責任なので、救済の対象にはならないのです(2型糖尿病患者?)。*6

jbpress.ismedia.jp

どちらの党にも無視され、グローバル化の悪影響でも割を食ったブルーカラーの白人たちは意気消沈した。米国では史上初めて、白人の平均寿命が短くなっている。

傷口に塩を塗るかのごとく、白人の貧困層だけはいまだに物笑いの対象になっている。ポリティカル・コレクトネス(政治的な公正さ)のルールからも外されている。

上野千鶴子も「弱者は邪魔者なので足蹴にする」と自己責任論で切り捨てています(これがフェミニズムの本質)。*7

何でフェミニズムが、彼らの不安のケアをしなければならないのですか?・・・・・・そういう人たちがフェミニズムの妨げになるかもしれないので、降りかかる火の粉は振り払い、じゃまなものは足蹴にしなくてはならないから、対策は必要だとは思いますよ。・・・・・・自分のケアは自分でする、これがフェミニズムの自己解放の思想の基本のきです。

ドナルド・トランプが選挙戦において

I think the big problem this country has ― is being politically correct. I've been challenged by so many people, and I don't frankly have time for total political correctness.

We cannot afford to be so politically correct anymore.

と、ポリティカル・コレクトネスとの全面対決を宣言したのは、「労働者の政党」を作るためにはまずはリベラルを倒さなければならないためです。トランプはアメリカ社会の対立軸を見極めていました。

トランプ氏はそこで自分の態度が即興的でも一貫性を欠くものでもなく意図的だと示唆していた。同氏は「労働者の政党」すなわち「18年間実質賃金が上がらない人々の政党」を作るつもりだった。

www.bloomberg.com

I asked Trump what he thought the GOP would look like in five years. “Love the question,” he replied. “Five, 10 years from now—different party. You’re going to have a worker’s party. A party of people that haven’t had a real wage increase in 18 years, that are angry.

左派/リベラルが一般労働者の敵に成り果ててしまったことは、「人間の本性は変わり得る」という信念の誤りを示唆します。左派は共産主義と同じ失敗を繰り返しているのです。*8

階級「断絶」社会アメリカ: 新上流と新下流の出現

階級「断絶」社会アメリカ: 新上流と新下流の出現

わたしがこの節のタイトルを「福祉国家の理論的基盤の崩壊」としたのも、人間の仕組みが遺伝子や神経細胞のレベルでどうなっているかわかればわかるほど、人間の本性に関する昔の考え方が正しかったことがわかるだろうと確信しているからである。そうなれば、結婚、仕事、コミュニティ、信仰を取り巻く諸制度が、人が満ち足りた人生を送るための重要な支えであることも明確になる。また、これらの制度が先進福祉国家で崩れてきたのは、福祉国家の本質的なあり方に原因があることも明らかにされるだろう。*9

totb.hatenablog.com

totb.hatenablog.com

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*1:フランス大統領選挙の有力候補・マクロンのように、ネオリベラルは左派にも浸透しています。

*2:強調は引用者、以下同。

*3:ナチスドイツの味方になって「敵」を殺戮したウクライナクロアチアの民族過激派のようなもの。あるいは日本に対抗するための国共合作

*4:残り半分がトランプが言うところの"forgotten men and women"。

*5:上野千鶴子朝日新聞にコーナーを持っています。このような暴言を吐く「仕事」で高い社会的地位と収入を得られるのだから面白くてたまらないでしょう。

*6:リベラルが自分たちの存在意義を示すには、LGBTや不法残留外国人など新たなマイノリティを発掘し続ける必要がありますが、それは普通の男を「敵」と認定することに行き着きます。

*7:人間に性別や民族、人種などによる先天的な能力差は存在しないというリベラルの前提からは、差別されていない集団=白人の男が「負け組」になる原因は後天的、すなわち努力不足などの自己責任である、という結論が導かれます。リベラルが白人の男の「負け組」に冷淡な根底にはこのロジックがあります。

*8:共産主義にたとえると、ネオリベラル&リベラルが共産党幹部、極右が「連帯」などの民主化運動になります。現在は共産主義の行き詰まりが明らかになってきた1980年代になるでしょうか。ちなみに、エマニュエル・トッドが『最後の転落』でソ連の崩壊を予測したのは1976年でした。

*9:[引用者注]福祉国家の理論的基盤とは「人の本性は変えられる」「人間は潜在能力や素質においても平等→大きな集団差があってはならない」という考え方。