Think outside the box

MAKE JAPAN GREAT AGAIN

日本のサービス業の生産性が低いのは「世界最高の労働者」を低賃金で雇えるから

デービッド・アトキンソンが相変わらず「日本のサービス業は生産性が低い」と繰り返しています。

toyokeizai.net

貨幣で計測されるサービス業の生産性は「どれだけぼったくれるか」に左右されます。アトキンソンの母国イギリスの高生産性については下の記事が参考になります。

www.newsweekjapan.jp

日本の問題は「ぼったくれない」が故の低生産性ではなく、ミルトン・フリードマンの「企業の目的は株主価値の最大化」という"the dumbest idea in the world"を「資本主義の精神」と錯覚して、「企業利益の最大化≒コスト最小化」をマクロ経済運営に適用してしまったことです。本来、経済政策は国民の所得水準を高めることを目標にするべきですが、人件費の最小化→所得水準を高めないことを目標とする狂気に取り憑かれているのです。(⇩上野千鶴子と同類の有害インテリの典型)

資本主義においては、利潤追求それ自身が無条件に正統化される。*1

その追求を制約する上位規範が存在する訳ではない。

それ故、資本主義においては、利潤原理(企業が[プラスの]利潤を最大化する行動) が根本規範となる。

企業の目的は利潤(profit)を最大にすることである。

そのために、コストをなるべく小さくしようとする。コストを最小にするのが目的である。

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実際、構造改革が本格化した1990年代末から1人当たり名目GDPは増加を止めていますが、これは「何事も極める」性向が強い日本人が「コスト最小化」を世界一忠実に実行していることを示しています。*2

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単位労働コストが低下している国は日本だけです(→デフレの原因)。

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政府も実質賃金引き下げに貢献しています。

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保育や介護など技術進歩による生産性向上余地が乏しいサービスは、質を保つためには価格と賃金を引き上げていく必要があります(ボーモルのコスト病)。

The Cost Disease: Why Computers Get Cheaper and Health Care Doesn't

The Cost Disease: Why Computers Get Cheaper and Health Care Doesn't

コスト削減を優先すると、質の低下and/or過重労働が不可避です。

「株主価値の最大化」の弊害が至る所で現実化しています。

edition.cnn.com

Employees become bitter and cynical. The best leave, while the worst stick around. The quality of products and services suffer, and customers become dissatisfied.

この点に関しては、アトキンソンの次の言葉は正論です。

「良い物を安く売るのが日本の美徳だ」と言うのであれば、その「美徳」の結果、子供の6人に1人が貧困に陥っている状況をどう説明するのでしょうか。医療・福祉制度が破綻し、人の命にかかわる手術ができなくなって、助かる人も助からないという未来も絵空事ではありません。人の命を危険にさらす「美徳」など、本当に必要なのでしょうか。私には、とてもそうは思えません。

倹約が目的化した日本社会は、いわば「食費を抑えるためには栄養失調や餓死も辞さない」という異常な心理状態に陥っています。まさに「身を切る」改革です。*3

totb.hatenablog.com

アトキンソンはITの活用が進まないことも指摘していますが、これも異常な賃金抑制の結果と考えられます。アトキンソンが言うところの「世界最高の労働者」を低賃金で酷使できるため、企業には「組織や仕事のやり方を抜本的に変える」インセンティブが働かないのです。低賃金労働者が豊富だった明や清(中国)で産業革命が起こらなかったようなものです。*4

voxeu.org

… the industrial revolution occurred in Europe rather than China because European entrepreneurs were eager to adopt machines to cut down on high labour costs. China didn’t “miss” the industrial revolution – it didn’t need it.

Whereas entrepreneurs in Europe were very eager to develop new technologies that increased labour productivity via the capital-labour ratio, Chinese businesses barely had any incentive to do so.

所得倍増の立役者・下村治は30年前に

日本は悪くない―悪いのはアメリカだ (文春文庫)

日本は悪くない―悪いのはアメリカだ (文春文庫)

忘れてはならない基本的な問題は、日本の一億二千万人の生活をどうするか、よりよい就業の機会を与えるにはどうすべきか、という点なのである。

と書いていましたが、政財官学のエリートがこの基本的な問題を忘れてしまったことが、アトキンソンが嘆く「日本のサービス業の低生産性」の根本原因です(エリートの劣化)。日本人の9割以上には、人の命を危険にさらす「株主価値の最大化」など、必要ないでしょう。

totb.hatenablog.com

totb.hatenablog.com

totb.hatenablog.com

補足①

ボーモルのコスト病について過去記事から再掲します。

経済が生産性が上昇する革新セクターと上昇しない停滞セクターの二部門から成り、革新セクターの賃金は生産性に比例するとします。

革新セクターで「生産性が2倍になる→賃金も2倍になる→単位労働コストは不変→財・サービス価格も不変」が生じると、停滞セクターの賃金も革新セクターに引きずられて上昇します(ここでは同じ2倍とする)。生産性は不変なので賃金上昇は価格に転嫁されます(ここでは2倍とする)。その結果、停滞セクター/革新セクターの相対価格は2倍になります。革新セクターの生産性が上昇するほど停滞セクターの相対価格は高くなるわけです。

家事・育児は製造業や情報通信業のように生産性を上昇させられない典型的な停滞セクターなので、製造業などで生産性が上昇するとメイドを雇うことが相対的に割高になり、メイドから"Do-It-Yourself"へのシフトが進むことになります。

これが、第二次大戦後の先進国でメイドや執事が激減した理由です。

補足②

アトキンソンは農業についても俗論を展開していますが、下の記事はそれに対する反論になります。

blogos.com

*1:[引用者注]正統化は正当化の誤りと思われます。

*2:ミクロの「正しい行い」を集めればマクロ(経済社会)が良くなるという観念は、ネオリベラルを含む広義のリベラルに共通します。

*3:節約したカネは、企業の内部留保(→海外投資)や外国人株主への配当金に流れています。

*4:未来の経済史の文献には 'Japan didn't "miss" the IT revolution – it didn't needit.'と記されているかもしれません。