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Think outside the box

MAKE JAPAN GREAT AGAIN

マンガでわかる「日本経済入門」の誤謬~企業価値向上と長期停滞

日本経済の長期停滞(名目GDPの成長停止)に関する古典的な誤解です。

president.jp

いいか、日本経済が長期停滞している理由、それは、日本人が勤勉で倹約家だからじゃ。

みなが倹約に務めると、作ったモノが売れ残るから、企業は業績が悪くなって社員をリストラせにゃならん。失業者は金がないからモノが買えないから、さらにモノが売れ残る……

みんなが貯金を使うようになれば、消費が拡大して、企業の業績があがり、給料もあがる。

もっともらしい説明で、いわゆるリフレ政策もこのような認識に基づいていますが、現実とは合致していません。*1

jp.reuters.com 

今月1日に発表された財務省の法人企業統計によると、昨年10─12月期の経常利益は過去最高。利益剰余金の年末残高も375兆円と過去最高水準を更新した。

企業は人手不足にもかかわらず、利益を人件費に回すことはなく、16年末の労働分配率は43%台と過去最低水準だ。

今年の春闘も賃上げに消極的な企業が多く、人手不足に伴う給与増はパート社員に限定されそうで、政府・日銀が期待する所得増を起点にした景気拡大は雲行きが怪しくなっている。

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家計消費が拡大しないのは、 企業が史上最高益にもかかわらず給料に反映させないためです。企業は利益が増えても賃上げに回さず、純資産を増やし続けています。

賃上げはなぜ必要か: 日本経済の誤謬 (筑摩選書)

賃上げはなぜ必要か: 日本経済の誤謬 (筑摩選書)

以前は①企業利潤が上昇後、

  • ②人件費を先導に、③企業純資産、④設備投資の3者がバランスよく上昇していたが、
  • 98年度以降、経験法則が崩れ、優先度が②純資産、③設備投資、④人件費の順になった

純資産だけを見れば、日本が長期停滞にあるとは思えません。*2

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純資産の対GDP比の上昇ペースは長期停滞期に高まっています。

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企業が純資産増加を最優先するようになったのは、株式投資家が重視する「企業価値向上」への対応ではないかと考えられます。

「カネがすべて」の投資家にとって重要なのは企業価値向上という結果であって手段ではないので、企業は投資対象を資本効率の低い有形固定資産(←設備投資)から高い投資その他の資産(←金融投資)にシフトしたわけです。投資家は満足しますが、設備投資と人件費(→家計消費)は抑制されるために、日本経済は長期停滞から脱け出せなくなります。賃金抑制の原因はリフレ派が考えるような緊縮的な財政金融政策ではなく、企業が企業価値向上」のシングルイシュー経営に傾斜したことです。*3

toyokeizai.net

金融緩和を強化してもインフレ率がこれまで持続的に上がらなかった1つの要因は、労働者の賃金が抑制され続けたことにある。

1990年代以降、財政金融政策が恒常的に引き締め的に作用したことが、デフレの長期化の真因と筆者は考えている。

長期停滞は「日本人が勤勉で倹約家だから」ではなく、経営者が株式市場(株主)という「権威」に服従するようになったからであり、そのように仕向けたのが橋本龍太郎内閣以来続く「構造改革」なのです。*4

totb.hatenablog.com

おまけ

マンガの監修者は、銀行貸出(信用創造)のメカニズムも理解していませんでした。

president.jp

そこで日銀は「預金を、マイナス金利にしちゃう!」と宣言したんじゃ。つまり、お金を預けている銀行が、金利分を損してしまう。

だから銀行は日銀から預金をおろして「金利を安くしますから、借りてください!」と企業に頼んで回っているわけよ。

blogos.com

*1:リフレ政策で「魔法の粉」に相当するのがインフレ予想。

*2:GDPは1993SNAの季節調整値。

*3:"Japan's trap"は、クルーグマンやリフレ派の理解とは全く別物だったということ。

*4:ミルグラム実験が示したように、経営者が長時間労働(強制労働?)を要求する背後にはその「権威」があると考えられます。