Think outside the box

MAKE JAPAN GREAT AGAIN

[雑感]改革派・藪医者・クメールルージュ

朝日新聞経済財政諮問会議の民間議員を務めた牛尾治朗のインタビューが(好意的トーンで)連載されています。

www.asahi.com

日本は大企業の社員や官僚が最も信用され、終身雇用で安心できる社会なのだが、地方の中小や個人事業主は必ずしもこの「安心社会」に属していないのだ。

やる気とアイデアのある自立した個人なら、学歴や所属に関係なく実力を発揮できる「信頼社会」になってほしい。そう考えた。

www.asahi.com

小泉純一郎首相が流れを一気に変えた。

01年4月に「構造改革なくして景気回復なし」を掲げ、大方の予想に反して自民党総裁選に勝利して首相に就任。竹中平蔵さんを経済財政相に据えると、とたんに会議が機能し始めた。驚きだった。公共投資のカットや地方への税源移譲など、族議員、役所が脈々とつくりあげて自らでは変革できない既得権益にメスを入れていったのだ。

f:id:prof_nemuro:20170314211558g:plain

自画自賛していますが、公共投資半減や規制緩和、民営化などの「官から民へ」の構造改革の成果はどうでしょうか。

スティグリッツは2013年9月6日のESRI国際コンファレンス「日本経済の再生に向けて:グローバル経済における政策の役割」で

経済政策の目的はGDPGDP成長率を高めることではない。経済政策の目的はその国の全国民の豊かさ(well-being)を改善することであり、繁栄を共有するように促進することである。

と述べていたので、ここでは国税庁民間給与実態統計調査」の平均給与を実質化したものを指標として診断します。 *1

実質平均給与は1997年から2015年にかけて男女計で12%減、男は11%減で、約30年前の水準に逆戻りしています。*2

f:id:prof_nemuro:20170314181611g:plain

f:id:prof_nemuro:20170314181622g:plain

「官から民へ」は民間を活性化するのではなく、平均的国民のwell-beingを低下させただけでした。改革派がメスを入れた「変革できない既得権益」は、民の生活を守る「変革してはいけない安定化装置」だったということです。

社会から安心と信頼を消し去った構造改革は言い訳の余地がない大失敗であり、牛尾をはじめとする「改革派」は「藪医者」と言わざるを得ませんが、本人は失敗したとは思っていないようです。

失敗の科学 失敗から学習する組織、学習できない組織

失敗の科学 失敗から学習する組織、学習できない組織

多くの場合、人は自分の信念と相反する事実を突き付けられると、自分の過ちを認めるよりも、事実の解釈を変えてしまう。次から次へと都合のいい言い訳をして、自分を正当化してしまうのだ。ときには事実を完全に無視してしまうことすらある。*3

事実さえ受け入れなければ、さまざまな矛盾が解消され、自分は頭がいい、筋の通った人間だと信じ続けることができる。

しかし、改革派=藪医者という見方は楽観的に過ぎるかもしれません。

ロナルド・ドーアは日本社会が新自由主義的になってきた重要なメカニズムの一つに、アメリカ留学を挙げています。

幻滅 〔外国人社会学者が見た戦後日本70年〕

幻滅 〔外国人社会学者が見た戦後日本70年〕

官庁、大企業が社費で、毎年、新社員の一番優秀な人を幾人か、ときどきはヨーロッパだが主として米国へ、MBAや経済学・政治学の修士・博士号をとりに送られた人が大勢いた。

その「洗脳世代」の人たちが、いよいよ八十年代に課長・局長レベルになり、日本社会のアメリカ化に大いに貢献できるようになったというわけだ。 

ポル・ポトが留学先のフランスや訪問先の中国で吸収した共産主義毛沢東思想に基づいてカンボジアを「国家改造」しようとしたように、改革派はアメリカで吸収したネオリベラリズムに基づいて日本を改造しようとしているようにも見えます。イデオロギーで動く人の特徴は、思想の実現を国民のwell-beingよりも優先することです。言い換えると、犠牲者が何百万人だろうが何千万人だろうが意に介さないということです。

自己の利益を最大化することで、かりに他者が不幸になったとしてもそれに何の道徳的責任を感じたりしない「合理的精神」こそが、自由競争の勝者に求められる資質であると言っても過言ではないだろう。

ケインズ『一般理論』第24章

経済学者や政治哲学者たちの発想というのは、それが正しい場合にもまちがっている場合にも、一般に思われているよりずっと強力なものです。というか、それ以外に世界を支配するものはほとんどありません。・・・・・・善悪双方にとって危険なのは、発想なのであり、既存利害ではないのです。

改革派が敵視した「既得権益」よりも、改革派が信奉する「思想」の方が日本国民のwell-beingにとって有害だったことは疑う余地がありません。

古い自民党に取って代わった改革派が原始共産制の代わりにネオリベラリズムグローバリズム*4を信奉するクメール・ルージュのようにも見えてきますが、未だに多くの国民が彼らを支持するのが「不思議の国ニッポン」です。

日本改造計画

日本改造計画

ポル・ポト〈革命〉史―虐殺と破壊の四年間 (講談社選書メチエ 305)

ポル・ポト〈革命〉史―虐殺と破壊の四年間 (講談社選書メチエ 305)

totb.hatenablog.com

totb.hatenablog.com

totb.hatenablog.com

*1:消費者物価指数の「持家の帰属家賃を除く総合」で実質化。

*2:男の1980年→1997年は年率+1.2%、1997年→2015年は同-0.7%

*3:強調は原文では傍点。

*4:外資(外患?)誘致