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Think outside the box

MAKE JAPAN GREAT AGAIN

スティグリッツの日本再生案とコスト病

3月14日の経済財政諮問会議に招聘されたスティグリッツが日本経済再生について提言しました。

教授からは資料に従いまして「世界的に成長率が低下し、その寄与は上位層に偏っている」「教育、健康医療等のサービス産業を中心とした経済に再構築する必要がある」「市場システムだけでは再構築できないので、教育やイノベーションの促進について政府が関与する必要がある」「成長の成果をより平等に分かち合うためには、賃上げや所得分配の是正や社会保険の提供が必要」「日本の産業政策はうまく働いており、カムバックが必要」「日本で最も重要なのは、三本目の矢やイノベーションでの政府のリーダーシップである」など御説明がありました。*1

日本の事情に関する理解不足な点もいくつか見受けられますが、ここでは特に重要なサービス業への公的関与と賃上げについて取り上げます。

スティグリッツの提出資料の4ページの一部と

  • Objective is not to maximize GDP
And that individuals value work—decent work at decent pay

5ページを引用します。

Economy will be evolving towards service sector economy

Among key service sectors are education, health, and other public services

Value of those services is largely socially determined—not “just” a market process

If we value those services highly—pay good wages, provide good working conditions, and create sufficient number of jobs—that will limit growth in market income inequality

  • Including jobs with limited skill requirements
  • Higher pay will result in such jobs having higher “respect”
  • Private sector wages will follow public sector wages
  • May need also to provide wage subsidy for low wage jobs, to encourage demand for such jobs and increase wages 

スティグリッツの指摘は「ボーモルのコスト病」と関係します。ボーモルのコスト病については下の記事で詳しく解説されています。

一方では予算の強い制約があり、他方では高度な科学技術のもとで生産性の驚異的な上昇の可能な技術革新がある。両者が結びつく結果、行政当局は分かれ道に立たたされることになる。一つは,《コスト病》を退治しようとして重要な公共サービスをさらにもっと粗末なものにすることだ。もう一つは、その高いコストというものを、もはや「会計上の不運」として捉えるのではなく、「善行に対する正当な報酬」として受け止めることだ。

The Cost Disease: Why Computers Get Cheaper and Health Care Doesn't

The Cost Disease: Why Computers Get Cheaper and Health Care Doesn't

If we can expect productive innovation to continue, the most pressing problem created by the cost disease is the rise in relative costs of personal services and the resulting illusion that these services are no longer affordable. In reality, we will enjoy more from both the progressive and stagnant sectors, even though the products of the latter sector will grow relatively more expensive over time.

日本は悪くない―悪いのはアメリカだ (文春文庫)

日本は悪くない―悪いのはアメリカだ (文春文庫)

多くの人に就業の機会を与えるには、それ相応の人手を産業に吸収させなければならない。しかし、付加価値を高めるには、なるべく人手を減らして生産性を高める必要がある。

このため、必然的に、生産高の割りには人手を多く必要とする生産性の低い部門と、徹底的に合理化して相対的に人手をあまり必要としない生産性の高い部門の両極端の産業が成立するようになったのである。

以上を簡単にまとめると、

  • 先進国における保育や介護や生演奏などの人手によるサービスは、生産性が100年前、あるいは途上国と大差がないにもかかわらず、高賃金を得られている。
  • これは、生産性の高い部門(progressive sector)の生産性向上が低い部門(stagnant sector)の賃金と価格を引き上げる「ボーモルのコスト病」のため。
  • 製造業で技術革新が進むとサービスの財との相対価格は上昇する。
  • サービスの相対価格の上昇を止めると、質の劣化and/or労働者の負荷増大(→実質的な賃下げ)が起こる。
  • 経済全体で"decent work at decent pay"を実現するためには、stagnant sectorの価格と賃金をprogressive sectorの生産性向上に連動して引き上げることが必要。
  • これは市場メカニズムでは無理なので、政府の介入が必要となる。

ということです。直感とは逆に、専門性の低い人手によるサービスにdecent payを支払うことが経済成長にプラスに働きます。

これまでの日本では、これらのサービスを民営化や非正規雇用化、あるいは外国人労働者によって低賃金・低価格化することが「正しい改革」とされてきましたが、それは大間違いだったことになります。「構造改革」という大間違いを続けてきたために、名目GDPは全く増えず、民間給与は実質で1割も減少してしまったのです(日本版大躍進政策)。

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日本経済再生には「サービスの公営化・公務員数増加・賃上げ」が必要ということですが、論理よりも感情・空気が優先される今の日本では極めて困難と言わざるを得ません。*2

business.nikkeibp.co.jp

東條が開戦を決断した背景には、世論の影響もありました。当時は、戦争回避の努力をしようとすると、抗議の手紙が来たりしたのです。

一般の国民は、「自分たちが中国とずっと戦争をしてきたのは、このようにアジアを解放するためだったのだ」とそれまでの経緯を後づけで合理化した。しかも勝っていると思っていましたからね。国民は、対米戦争が終われば日中戦争も終わるだろうと考え歓迎しました。

「行政の無駄を削減すれば日本が良くなる」と公務員を叩く民意とそれを煽る政治家が日本を没落させている構図は、大日本帝国の破滅の経緯と同じように見えます。

totb.hatenablog.com

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*1:石原内閣府特命担当大臣記者会見要旨より。出所は内閣府

*2:安全よりも安心。