Natureが「日本の科学研究はこの10年間で失速していて、科学界のエリートとしての地位が脅かされている」と警鐘を鳴らしています。
Nature Index 2017 Japan 本日公開! @ochyai 先生がカバーを飾ります。研究が失速するいま、鮮烈なひらめきが求められる! https://t.co/fLb2MPTLQk #NatureIndexJapan pic.twitter.com/KAWoD9Xf1u
— Nature Japan (@NatureJapan) 2017年3月23日
その主因は
と考えられますが、その背景には日本経済の凋落があります。
日本の名目GDPは1997年から成長を停止しています。
ちなみに、ブービー賞はガンビアです。こんな国にも劣る最下位という意味で「日本スゲー」です。
「日本を取り戻す」どころか、GDPの世界シェアは1968年の水準に逆戻りしています。*3
1990年代半ばから、活力ある発展のためと称して財政改革(税制改正、等々)、行政改革(郵政民営化、道路公団民営化、国立大学の独立行政法人化、公務員人件費削減、等々)、金融システム改革(金融ビッグバン)、企業ガバナンス改革、雇用制度改革(労働者派遣法改正、等々)などのアメリカ的ネオリベラル改革が進められましたが、むしろ経済社会の至る所での弱体化を招いたようにしか見えません。*4
「職員給与の削減」のみで経費の削減を行う、というのは「市民と職員の首の締めあい」です。

イノベーションはなぜ途絶えたか: 科学立国日本の危機 (ちくま新書1222)
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土壌を切り捨てることにより「贅肉を切り落とそうとして誤って脳みそを切り落としてしまった」日本では、創造的な若者たちが創造の場を失って、ワーキングプアに成り果ててしまった。
私が、若い人に1つだけ言いたいのは、「みなさんには貧しくなる自由がある」ということだ。・・・・・・ただ1つだけ、そのときに頑張って成功した人の足を引っ張るな」と。*5
たとえると、
- 中年期に入った人が若い時の感覚で無茶をして体調が悪化する(バブル経済と崩壊)
- 治療を先送りしていたために危険な状態になる(金融危機)
- 「アメリカで最新医学を修めた」と称する医師に治療を任せる(構造改革)
- 衰弱が加速する
- 医師は「治療が不十分」として継続を主張する(もっと改革を!)
のようなものです。
正気であれば、医師は善意の薮医者か悪意を持っていると判断できるはずですが、国民の多くが「『改革』と聞くだけで陶酔する中毒者」あるいは「改革教の信者」になっているために、医師をパージして治療を速やかに中止することができなくなっているのです。*6
財政均衡や官業民営化などの「改革」が1980年代前半に遡る「古い発想」であることを考慮すると、
「改革」という危険ドラッグを止めることは極めて難しいと言わざるを得ません。
Natureの「科学の世界におけるエリートとしての座を追われることになりかねません」という警告が的中してしまうでしょう。*7
むずかしいのは、その新しい発想自体ではなく、古い発想から逃れることです。その古い発想は、私たちのような教育を受けてきた者にとっては、心の隅々にまではびこっているのですから。
The difficulty lies, not in the new ideas, but in escaping from the old ones, which ramify, for those brought up as most of us have been, into every corner of our minds.
経済学者や政治哲学者たちの発想というのは、それが正しい場合にもまちがっている場合にも、一般に思われているよりずっと強力なものです。・・・・・・善悪双方にとって危険なのは、発想なのであり、既存利害ではないのです。
But apart from this contemporary mood, the ideas of economists and political philosophers, both when they are right and when they are wrong, are more powerful than is commonly understood. … But, soon or late, it is ideas, not vested interests, which are dangerous for good or evil.
追記
改革派と牟田口廉也の精神構造は似ています。
既に日本の名目GDPは90年代に入って横ばいを続け、2009年以降は中国に抜かれて世界3位になっており、今後も大きな成長は期待できません。・・・・・・今回のNature Indexは政府から予算を引き出すための道具に使うのではなく、民間からの資金調達や大学の人事制度改革を加速させることに知恵を絞れ、というメッセージと受け止めるべきではないでしょうか。