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Think outside the box

MAKE JAPAN GREAT AGAIN

デフレの原因はリストラクチャリング/長期停滞の犯人は「合理的な愚か者」

日本経済

日本銀行政策委員会の審議委員にバリバリのリフレ派が任命されるということなので、改めて「デフレの正体」について検証します。 

長年デフレデフレと騒がれてきたので、1990年代後半から近年までのほとんどの期間、物価下落が続いていると錯覚している人も多いようですが、実際は1998-2003年にかけて財価格が約6%下落しただけで、それ以降は輸入価格と消費税率の影響を除くと財・サービスともに横ばいを続けています。

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1998-2003年に起こったのは企業部門の大規模なdeleveragingです。1997年度までは恒常的資金不足主体だった企業が、金融危機を契機に、1998年度以降は資金余剰に転じています。

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有形固定資産も減少、

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賃金も大幅に低下し、

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男の雇用も減少しています。「男性不況」の始まりです。

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これらは、雇用・設備・債務の「3つの過剰」を解消するための大規模なリストラクチャリング(deleveragingや人件費削減など)がデフレの原因だったことを示しています*1。なので、リストラが一段落して外需に牽引された景気拡大局面に移行すると財価格の下落は止まったわけです。*2

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もっと早くゼロ金利政策に踏み切っていたとしてもデフレを止められなかったであろうことは、転向したクルーグマン(2010)も認めています。もちろん、量的緩和もdeleveragingには無効です。

voxeu.org

But if the deleveraging shock is severe enough, even a zero interest rate may not be low enough. So a large deleveraging shock can easily push the economy into a liquidity trap.

クルーグマン国債発行による財政支出がデフレ対策に有効と主張するようになりましたが、

In the model, deficit-financed government spending can, at least in principle, allow the economy to avoid unemployment and deflation while highly indebted private-sector agents repair their balance sheets, and the government can pay down its debts once the deleveraging crisis is past.

これはケインズの主張と同じです。

物価上昇それ自体を目的とし、その救済的価値を過大に強調することは、「回復」の手段としての物価の役割について、重大な誤解につながりやすい。総購買力の増加によって生産を刺激することが、物価上昇の正しい方途であり、その逆ではない。*3

このように、「回復」の初期段階における主要な原動力として、租税を通じての既存所得からの単なる移転ではない、公債によって資金調達された政府支出の購買力の圧倒的な力を、私は強調したい。*4 

ところが、この時期に政府が行ったのは公共投資の大幅削減です。

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今の痛みに耐えて明日を良くしようという「米百俵の精神」こそ、改革を進めようとする今日の我々に必要ではないでしょうか。*5 

大恐慌当初のアメリカの失敗と同じです。

www.nytimes.com

“Liquidate labor, liquidate stocks, liquidate the farmers, liquidate real estate.” That, according to Herbert Hoover, was the advice he received from Andrew Mellon, the Treasury secretary, as America plunged into depression.

デフレの「犯人」はリフレ派が執拗に糾弾していた日銀ではなく、企業のリストラクチャリング(deleveragingや人件費削減)であり、本来はそれを相殺しなければならない政府が公共投資削減という逆噴射を重ねたということです。*6

ではリストラが一段落した2004年以降のゼロインフレの原因は何かですが、その手掛かりはサービス/財の相対価格の上昇が止まったことです。*7

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サービス価格は賃金に強く影響されるので、これは賃金上昇が無理やり抑制されていることを示唆します。

サービスというのは、これは御案内のとおり、労働集約的な活動が多いということで、賃金の影響を大きく受けるわけでございます。

1990年代の後半あたりから、日本の賃金の設定というのは非常に伸縮的になってきて、前年対比でマイナスという世界に入ってまいりました。*8

賃金抑制の主因は、1998-2003年のリストラクチャリング後、企業の行動原理がミルトン・フリードマン*9

[T]here is one and only one social responsibility of business – to use its resources and engage in activities designed to increase its profits"

あるいは

企業の目的は利潤(profit)を最大にすることである。

そのために、コストをなるべく小さくしようとする。コストを最小にするのが目的である。

失われた〈20年〉

失われた〈20年〉

「企業は、株主にどれだけ報いるかだ。雇用や国のあり方まで経営者が考える必要はない」*10

に変化したためと考えられます。事実、この時期に、人件費を抑制して配当と利益剰余金(いわゆる内部留保)を増やす行動への非連続的変化が見られます。

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幻滅 〔外国人社会学者が見た戦後日本70年〕

幻滅 〔外国人社会学者が見た戦後日本70年〕

官庁、大企業が社費で、毎年、新社員の一番優秀な人を幾人か、ときどきはヨーロッパだが主として米国へ、MBAや経済学・政治学修士・博士号をとりに送られた人が大勢いた。

その「洗脳世代」の人たちが、いよいよ八十年代に課長・局長レベルになり、日本社会のアメリカ化に大いに貢献できるようになったというわけだ。 

外人株主様のリターンを最大化するために自国の労働者の賃金を最小化する」という株主主権論に日本中が「洗脳」された結果、個々の企業が「合理的」に人件費最小化を目指す(自国民窮乏化)→経済全体で消費の原資が最小化される→内需が構造的に伸びなくなる→極端な外需志向になる、という愚かしい構図が生じています。これが「観光立国」やTPPなどの安倍政権の常軌を逸した外国迎合の背景です。*11

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株主主権論に基づいた構造改革によって企業が「合理的な愚か者」になったことが日本経済の長期停滞を招いたこと、従って「構造改革の否定なくして日本再生なし」であることは明らかでしょう。

自己の利益を最大化することで、かりに他者が不幸になったとしてもそれに何の道徳的責任を感じたりしない「合理的精神」こそが、自由競争の勝者に求められる資質であると言っても過言ではないだろう。

2015年度の日銀審議委員の年間報酬は2616万円、在職期間5年の退職金は1595万円でしたが、この期に及んで無意味(というより有害)なリフレを唱える審議委員にこれだけの大金を払う価値はあるでしょうか。(現職のリフレ派審議委員⇩)

ironna.jp

公共投資GDPの関係を相関係数という統計的尺度(1であれば完全に連動し、ゼロであれば関係がなく、マイナス1であれば完全に逆に連動している)で見ると、1980~95年では0.849、1996~2013年ではマイナス0.886となる。相関係数がマイナスであるとは、公共投資を減少させるとGDPは増大する関係があるということである。*12

時系列モデルでも、最近の分析では、金融政策の効果はあるが、財政政策の効果はない、または小さいという結果になる

totb.hatenablog.com

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おまけ

ちなみにリフレ派とは、一般的に「景気浮揚には積極的な金融緩和と財政拡大が必要」といった考えを持つ人々のことを指します。現在の日銀メンバーでは岩田副総裁、原田泰委員、桜井委員がその論派として有名であるほか、前内閣官房参与本田悦朗氏や早稲田大学の若田部教授などがそうした考えを持っています。

リフレ派は元々、「大恐慌からの脱却は積極財政ではなく金融政策のレジームチェンジによるもの」など、「金融政策の効果はあるが、財政政策の効果はない、または小さい」といった考えを持つ人々のことを指します。リフレ派を積極財政論者とするのは歴史の「修正」です。

*1:リチャード・クーが言うところの「バランスシート不況」。

*2:2013年1月~2014年3月の計35兆円の非不胎化円売り介入によって円高を止めたことが、その後の大幅円安につながっています。

*3:[引用者注]この部分はクルーグマンの"managed inflation"ことリフレ政策の否定です。

*4:ルーズベルト大統領への公開書簡」

*5:第151回国会における小泉内閣総理大臣所信表明演説(2001年5月7日)

*6:当初は構造改革路線を批判していたリフレ派が、異次元の金融緩和開始後には構造改革を批判する論者を執拗にバッシングするようになった(事実上、構造改革派の手先になった)ことは、リベラル左派の反ネオリベ叩きと同じ構図です。

*7:1991-2003年の相対価格は年率+1.5%

*8:2011年3月2日の衆議院財務金融委員会における白川日銀総裁(当時)の発言。

*9:旧東側の人民はマルクス、西側の人民はフリードマンの思想の犠牲者です。

*10:1994年2月のオリックス宮内社長(当時)の発言。

*11:安倍語録「もはや国境や国籍にこだわる時代は過ぎ去りました」「日本を、能力にあふれる外国人が、もっと活躍しやすい場所にします」「外国の企業・人が、最も仕事をしやすい国に、日本は変わっていきます」

*12:強調は引用者、以下同。