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最高益4.0と資本効率革命

5月25日と26日の日本経済新聞朝刊1面に掲載された「最高益4.0に挑む」について、財務省「法人企業統計(四半期別調査)」の資本金十億円以上の企業(金融業、保険業を除く)をグラフにして検証します。*1

  • 「減収で最高益」が4.0と1.0~3.0の違い。

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  • 利益率が高まっている。 

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最高益は生産設備を最小限にするなど背伸びをせず、ムダをそぎ落したからだ。 

  • 損益分岐点比率の低下には固定費減少が大きく寄与しています。

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生産設備≒その他の有形固定資産が1990年代後半から減少に転じた一方、株式が激増しています。

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企業買収や配当金を増やしても現預金は必要以上に積み上がっています。

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利益剰余金(いわゆる内部留保)も急増を続けています。

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企業がバランシートの左側では現金・預金と株式、右側では純資産(特に利益剰余金)を急増させるカネ余りになっている主因は、

増える資金を成長投資に充てる循環を生みださないと資本効率も高まらない。 

すなわち高い資本効率を目指しているためと考えられます。

下のグラフは年次別調査から作成したものですが、日本企業のリストラクチャリングがほぼ完了した2003年度以降、ROE国債金利の差が急拡大しています。このことは、どこかに「無理」が生じていることを示唆します。

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参考になるのが年金運用です。下は5年前の記事ですが、

www.bloomberg.co.jp

運用先の多様化によるリスク分散や予定利回りの達成が狙いで、1000億円超の顧客資産を消失させたAIJ投資顧問投資顧問の問題が表面化した2月以降も、海外大手ヘッジファンドなどに運用を委託しようとする年金が目立っている。 

佐藤素行シニアアナリストは、国内年金は「絶対収益の獲得や分散投資の観点から、オルタナティブ(代替)投資への興味を失っていないようだ」と指摘する。

この背景には、多くの年金基金が予定利率を5.5%にしていたため、1990年代後半になると安定運用では予定利率を達成できなくなったことがあります。

年金の予定利率に相当するのが資本コストあるいはROEです。経済産業省の「伊藤レポート」では

資本コストを上回るROEを、そして資本効率革命を

資本主義の要諦は労働分配率にも配慮しながら、資本効率を最大限に高めることである。個々の企業の資本コストの水準は異なるが、グローバルな投資家から認められるにはまずは第一ステップとして、最低限8%を上回るROEを達成することに各企業はコミットすべきである。もちろん、それはあくまでも「最低限」であり、8%を上回ったら、また上回っている企業は、より高い水準を目指すべきである。

と「ROE8%以上」を推奨していますが、上のグラフは8%が「予定利率5.5%」と同様の、日本経済の事態から乖離した非現実的な目標であることを示しています。そのため、年金基金が海外ヘッジファンドに運用委託するように、企業も国内設備投資から海外投資に資金シフトするようになったのです。*2

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日経記事には買収で海外市場に挑む成功例として、ROE14%前後の日本電産ダイキン工業が取り上げられていますが、海外投資にはリスクも大きいため、このような成功企業は一部に限られ、多くは資本効率を高めるような資金の使途を見つけられません。その結果が現預金の積み上がりです。

革命的な投資先を見つけられない企業がROEを高める最も効果的な方法が「ムダをそぎ落とす」すなわち人件費と設備投資の削減(抑制)です。「高ROEを目指す→固定費削減→利益増→現預金増→ROE低下→さらに固定費削減による利益増→・・・」の縮小均衡が、減収増益による最高益4.0の意味するところです。

中国経済大躍進政策によって大後退したように、日本経済は約20年続く資本効率革命によって破壊されつつあります。グローバル投資家を満足させるための「改革」によって日本国民の大半が犠牲にされているのです。*3

www.bloomberg.co.jp

潤沢な資金を持つ強者対安い賃金で働かされる弱者ー。国際通貨基金IMF)は日本の企業と被雇用者の関係をこのようにみる。労働市場のこの問題に対策を講じなければ日本全体が敗者になると、対日審査責任者のリュック・エフェラールト氏が指摘した。

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*1:フロー項目は4Q累計、ストック項目は4Q後方移動平均を用いる。

*2:重すぎるノルマが無謀なリスクテイク(→WH買収)や不正行為(→ブラック労働)を誘発することと同じ。

*3:最近、シルバーデモクラシーや「高齢者に優しすぎる社会保障」の弊害を煽る記事が増えてきたようですが、「グローバル投資家を満足させるための資本効率革命」の弊害から目を逸らさせるための情報操作かもしれません。