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日本経済を成長させないための三つの仕掛け(と仕掛人)

一国の経済水準を長期的に高めていく「富国」には、公共投資と設備投資が重要な役割を果たします。逆に、ある国の経済を長期的に衰退させるのであれば、公共投資と設備投資を減らすように仕向けることが効果的です。

日本の実質公的固定資本形成は1995年度のピークからほぼ半減しています。

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企業も設備投資から有価証券投資(→M&A等)に「投資」の内容を変化させています。

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これでは日本経済が長期停滞するのは必然ですが、この背景には、過去20年間の「構造改革」で日本経済に仕掛けられた「投資させないための三点セット」

  1. 基礎的財政収支(プライマリー・バランス)
  2. 費用便益分析(B/C分析)
  3. 資本効率重視経営(ROE目標)

があります。以下、順に見ていきます。

ケインズ大恐慌からの脱却には「国債発行→財政支出」が有効としていましたが、

「回復」の初期段階における主要な原動力として、租税を通じての既存所得からの単なる移転ではない、公債によって資金調達された政府支出の購買力の圧倒的な力を、私は強調したい。*1 

これができないように2001年に持ち込まれたのが、当初は誰も意味を理解できなかった(意味のない?)プライマリーバランスです。

日本経済「余命3年」 <徹底討論>財政危機をどう乗り越えるか

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竹中 じつはプライマリーバランスという考え方は、2001年に「骨太の方針」で私が持ち込むまで、政府内にはありませんでした。だから当初、私が議論を始めても、誰も意味を理解できませんでした。

プライマリーバランス公共投資に使える資金量を制約する第一のハードルだとすれば、資金があっても投資できないようにするための第二のハードルが、1997年に橋本龍太郎総理大臣の指示によって持ち込まれたB/C分析です。

B/Cとは便益/費用(Benifit/Cost)のことで、投資するかしないかの判断基準に用いられますが、これには主に二つの問題点(注意点)が指摘されています。

一つは、費用は比較的正確に算定できるが、便益は算定しにくいことです。例えば「普段の交通量は少ないが、大震災発生時には通行不能になった幹線道路の迂回路の役割を果たす」道路の場合、後半部の便益は定量化困難なので、定量化しやすい「普段の交通量」に基づいて「無駄な事業」と判断されてしまうバイアスが働きます。

もう一つは、将来に発生する便益を現在価値に換算するのに用いられる社会的割引率が一般的に4%とされていることです。*2

下のグラフは毎年1の便益を50年間発生させる事業の現在価値を割引率別に比較したものですが、割引率が高くなるほど現在価値は小さくなり、「無駄」と判断される可能性が高まります。

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社会的割引率が公共事業の投資判断のハードルレートとなっているわけですが、長期国債金利や名目GDP成長率がゼロ近辺まで低下している現状では、4%は高すぎると言わざるを得ません。

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現状、B/C分析は便益(の現在価値)を過小評価して公共投資を抑制する仕掛けとして作用していることになります。橋本首相の緊縮財政の仕掛けは存分に効果を上げています。

民間設備投資を減らすための仕掛けが、1997-98年の金融危機を契機に日本企業に浸透した資本効率重視経営です。その論理を集大成した2014年の経済産業省「伊藤レポート」では、

資本コストを上回るROE を、そして資本効率革命を

資本主義の根幹を成す株式会社が継続的に事業活動を行い、企業価値を生み出すための大原則は、中期的に資本コストを上回るROE を上げ続けることである。なぜなら、それが企業価値の持続的成長につながるからである。この大原則を死守できなければ資本市場から淘汰される。資本主義の要諦は労働分配率にも配慮しながら、資本効率を最大限に高めることである。個々の企業の資本コストの水準は異なるが、グローバルな投資家から認められるにはまずは第一ステップとして、最低限8%を上回るROE を達成することに各企業はコミットすべきである。もちろん、それはあくまでも「最低限」であり、8%を上回ったら、また上回っている企業は、より高い水準を目指すべきである。

と、グローバル投資家を満足させるためにROE8%以上を求めています。実際、大企業のROEはバブルの後始末がほぼ完了した2003年度から急上昇して8%に迫っています。*3

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しかし、長期金利と名目成長率がほぼゼロの経済において、企業に高成長の海外経済並みの投資リターンを求めることは、

  • 国内投資から海外投資にシフト
  • 投資ではなくコストカットによって目標利益を実現*4

という歪んだ行動を誘発すると予想されます。実際、過去20年間はこの予想の通りに推移しています。*5

対外直接投資が激増し、

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利益水準を高めるために人件費が徹底的に抑制されています(→労働分配率引き下げ)。

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企業が日本経済の実情からかけ離れた高水準の投資収益率を実現しようとする限り、投資の海外流出とコストカット(→デフレ圧力)が永続するわけです(永続革命?)。この企業による緊縮(→資金余剰)が、「失われた20年」の最大の原因です。*6

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これらの三つの仕掛けがその途方もない悪影響の割りにあまり問題視されていないのは、 

  • 国の借金累増に歯止めをかけるべき*7
  • 無駄な公共事業は止めるべき
  • 企業は高い資本効率を実現して株主を満足させるべき

がほとんどの人(政治家を含む)には「正論」に感じられるためと思われます。「地獄への道は善意で舗装されている」状況が20年間も続いているのです。

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「国を内部から崩壊させるための活動」が20年間も続いていることは、「最も活動的で、かつ、危険なメンバー*8」が国の政治上層部に潜り込んでいることを示唆します。なお、利用される「革新者」や「進歩主義者」の知識人はH大学とK大学に多いようです。

民間防衛ーあらゆる危険から身をまもる

民間防衛ーあらゆる危険から身をまもる

国を内部から崩壊させるための活動は、スパイと新秩序のイデオロギーを信奉する者の秘密地下組織をつくることから始まる。この地下組織は、最も活動的で、かつ、危険なメンバーを、国の政治上層部に潜り込ませようとするのである。かれらの餌食となって利用される「革新者」や「進歩主義者」なるものは、新しいものを待つ構えだけはあるが社会生活の具体的問題の解決には不慣れな知識階級の中から、目をつけられて引き入れられることが、よくあるものだということを忘れてはならない。*9

一言で言えば、「会社は株主のもの」とする考え方(私はこれを「株主資本主義」と名付けています)そのものが、現在の経済危機の原因となっています。

株主資本主義を信じる人たちが「改革派」を称したり、「米国流の経営スタイル」が閉塞感を打開するという風潮が、いまの日本にはあります。それは結果として、日本も世界も潰してしまう――

日本を「貧国」に導いている三つの仕掛けに気付けば、日本再興に必要な政策が

であることも分かります。華国鋒らが四人組を逮捕して10年続いた文化大革命を終わらせたように、日本もグローバル投資家の走狗の「改革派」を追放して「失われた20年」を終わらせてもらいたいものです。*11

おまけ

「移民受け入れ」もグローバル投資家の要求です。

上昇気流に乗るのは誰だ!

上昇気流に乗るのは誰だ!

竹中 海外の投資家と議論すると、彼らからは必ずといっていいほど「移民を受け入れない限り、日本経済は信用できない」といわれます。

彼らの要求に従い続ければ、「貧国」どころか「亡国」一直線でしょう。*12

toyokeizai.net

私が、若い人に1つだけ言いたいのは、「みなさんには貧しくなる自由がある」ということだ。「何もしたくないなら、何もしなくて大いに結構。その代わりに貧しくなるので、貧しさをエンジョイしたらいい。ただ1つだけ、そのときに頑張って成功した人の足を引っ張るな」と。

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61人が書き残す政治家橋本龍太郎

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*1:ルーズベルト大統領への公開書簡」

*2:国土交通省「公共事業評価の費用便益分析に関する技術指針(共通編)」に基づく。

*3:グラフのROE当期純利益/純資産(前期末・当期末平均)で計算。

*4:資産を食いつぶして配当する「蛸配当」のようなもの。

*5:投資を資金運用に置き換えれば、伊藤レポートの要求が無理筋であることは容易に理解できるでしょう。個々のファンドマネージャーが運用成績を上げようと努力しても、日本全体の投資収益率が上がるわけではありません。「結果を出せ」と無理強いすれば、ハイリスク投機や不正行為を促進してしまいます。

*6:金融危機後、企業の銀行離れが進んでいるので、ROE引き上げのためにレバレッジを高めることは選択肢から除外されています。

*7:自国通貨と中央銀行がある国の政府は原理的にデフォルトしません。日本の国債発行が過剰ではなく過少であることは低インフレ・低金利が示しています。

*8:誰でしょうね。

*9:強調は引用者。

*10:経済産業省の若手は、俗説をまとめたパワポ資料を作るのではなく、伊藤レポートを批判すべきでした。

*11:賃金下落や非正規雇用の拡大などの日本経済の「ブラック化」が橋本内閣の「六つの改革」、特に金融ビッグバンと緊縮財政の本格化から始まったことから、「改革」こそ「失われた20年」の原因であることは容易に推測できるはずです。

*12:日本の「改革派」の目標は「日本の朝鮮化」ではないかと考えられます。朝鮮が中華帝国と中華文明に従う属国だったように、日本を欧米資本と新自由主義に従う「属国」にして、自分たちは「両班」の地位に納まるつもりなのでしょう。