Think outside the box

MAKE JAPAN GREAT AGAIN

日本企業とシュガー・マウンテンと石仮面

企業の利益剰余金と経済停滞の関係に着目したことはよいものの、事態の打開のための提案が逆に事態を悪化させるという内容の記事です。*1

jp.reuters.com

金融危機の1997-98年から利益剰余金の増加ペースの加速と日本経済(特に家計部門)の停滞感・転落感の強まりが同時に生じたことは、これらに関係があることを示唆します。

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しかし、「利益剰余金の増加≒現預金の増加」は事実誤認です。

財務省の2017年1-3月期法人企業統計によると、全産業ベース(銀行、保険業は除く)の利益剰余金は390兆3900億円と過去最高を記録。前年同期から23兆7100億円増えた。

わかりやすく言えば、企業が利益を出しているにもかかわらず、設備投資を控え、賃上げにも積極的に動かなかった結果、現金が積み上がってしまったということだ。 

現預金が大きく増加したのはこの3年間のことで、長期的には利益剰余金の増加に対応しているのは投資その他の資産(主に株式)です。

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診断が誤っているので、治療法も誤ってしまいます。

そこで、提案したいのは、マーケットメカニズムを使った「マネー追い出し」作戦だ。日本の株式市場では、ROE(株主資本利益率)が欧米に比べて低いという指摘は「耳タコ」状態のように聞かれるが、現預金を積み上げている経営者は「無能」と批判されているシーンを見たことはない。

市場関係者が企業の現預金の積み上がりに目を光らせ、ROEやROA(総資産利益率)などのデータと組み合わせ、何もしない「無能」な経営者をあぶり出し、そのような経営者がトップに君臨する企業の株価を下落させる──。

もし、こうした市場の「警鐘機能」が発揮されれば、ミクロベースでの企業の経営効率が高まるだけでなく、マクロ経済における最大の「難問」を解決する糸口になるのではないかと予想する。 

5月26日の日本経済新聞1面掲載記事「最高益4.0に挑む」には、2017/3期に5期連続で最高益(ROEは9.4%)を達成したセコムについて、

潤沢な資金を少しでも生かそうと配当金額を増やし続けているが、それでも使い切れていない。セコムは「今後の投資など様々な案件に備え、ある程度の手元資金を確保している」と話すが、具体的な使い道は現状見当たらない。

とありますが、全産業ベースでも、配当金を激増させても現預金を使い切れていません。

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企業がこのような状態に陥っているのは、高いROEROAを要求するマーケットメカニズムが、『スティール・ボール・ラン』に登場するスタンド「シュガー・マウンテン」のようなパワーを発揮しているためです。このスタンド能力は「品物を手に入れた人が日没までに正当な売買をして使い切らなければ木の実にしてしまう」というもので、捨てる・盗まれる・人に与えるなどによって手元からなくすことは不可なので、ジャイロとジョニィは大金を使い切ることに四苦八苦します。

近年の現預金の積み上がりも、企業が「正当な使い道」すなわち、グローバル投資家が要求する資本コストを上回る投資を見つけられず、四苦八苦していることの反映と言うことができます。

ロイターのコラムニストや経済産業省「伊藤レポート」の作成者たちが理解していないのは、日本経済は少子高齢化・人口減少という構造要因のために、海外経済を上回る成長率の実現はほぼ不可能であり、必然的に投資収益率も低くならざるを得ないことです。

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この環境下で企業に高い利益率・資本効率を迫ることは、

  • 現預金の積み上げ
  • 国内投資から海外投資へのシフト(→投資その他の資産の株式増加)
  • コストカット(主に人件費抑制)

を招きます。従業員に過度なノルマを課すと、不正が誘発されることと同じです。*2

二点目は、経済成長率≒投資収益率の内外差が浸透圧のように作用して、投資が海外に流出することを意味します(→資本ストックの老朽化)。「ミクロベースでの企業の経営効率」を高めることは、「マクロ経済における最大の『難問』を解決する糸口」になるのではなく、日本経済の「ミイラ化」を促進するだけです。

さらに馬鹿馬鹿しいのが三点目で、企業は増益を達成しても余剰資金が増えると資本効率が低下するため、ますます人件費抑制に走ることになります。昔であれば、増益→賃上げやボーナスアップで従業員に還元→家計消費増加→企業業績拡大→・・・の好循環が起こっていたものが、ロイターのコラムにあるように、

景気拡大のサイクルが企業のところで止まってしまうという現象に直面している。

まるで大きな川が、巨大な「遊水地」に入り込み、下流への流水量が細ってしまうような展開になっている。 

わけです。

要するに、現在の日本経済の環境下で企業に「グローバル投資家を満足させる高い資本効率の実現」を迫ることが、全力で日本人労働者を買い叩き、投資を海外流出させ、日本経済を停滞させる誘因となっているのです。

アメリカ大陸で作られた石仮面が人間を超人的な吸血鬼に変えるように、日本企業が「日本的経営をやめるぞ!」とアメリカから輸入した株主資本主義は、企業を「日本経済と日本人労働者の生き血を吸って高収益体質に若返る」ように変えてしまったのです。*3

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この企業の吸血鬼化が、橋本龍太郎内閣の「六つの改革」以降、“改革”すればするほど国民生活が悪化していく根本原因です。*4

totb.hatenablog.com

totb.hatenablog.com

*1:同じような内容が続いて恐縮ですが、日本経済の一番の重要時なので再度書きます。

*2:近年の非婚化の進行も、ハードル(要求水準)の引き上げ過ぎが主因です。他にも過剰サービス競争など、日本の経済社会は至る所でハードルの引き上げ過ぎによる機能不全に陥っています。ハードル上げすぎ症候群とでも呼べるでしょうか。

*3:ディオよりも、老体を若返らせたかったストレイツォに近い。

*4:日本経済再興は波紋使いにお願いしたいものです。