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自民党「日本の未来を考える勉強会」の事実誤認

自由民主党の若手議員有志でつくる「日本の未来を考える勉強会」の提言についてコメントします。

www.sankei.com

この総論的な認識は的確です。これらは薬ではなく毒なので、飲めば飲むほど悪化しているのです。

この20年間の経済政策のキーワードは「緊縮財政」「規制緩和、自由化」「グローバル化」でした。実際にこれらの政策は少なからず実現されています。しかし、その結果、日本経済は停滞したままなのです。「何かが間違っている」と考えるべき時に来ています。

しかし、個別点では事実認識の誤りや不適切な理解が見受けられます。

日本がこうしたデフレに陥ったのは、98 年。その背後には、97 年の消費増税があった。しばしば、この時のデフレ化は「アジア通貨危機」によるものとも言われるが、その危機が直撃したアジア諸国はもう既にデフレではない。だからデフレ化の原因は、消費増税以外には考えられない。 

何度も指摘していますが、デフレ化の原因は1997年4月の消費税率引き上げ(3%→5%)ではなく、同年11月に発生した金融危機です。これが企業の「三つの過剰」解消の引き金となり、いわゆるバランスシート不況に突入したことがデフレの始まりです。

デフレとバランスシート不況の経済学

デフレとバランスシート不況の経済学

安藤裕議員は1965年生まれの税理士ということなので、当時のことは記憶しているはずなのですが、なぜ金融危機を無視した「偽史」を信じ込んでいるのか疑問です。

この数字そのものは事実ですが、

GDP に対する内需の割合は圧倒的に高く、その割合は99%前後であり(GDP に占める純貿易額は、おおよそ1%程度に過ぎない)

このロジックだと、対GDP比で輸出が100%、輸入が99%でも、内需は99%になります。「日本の貿易依存度は低い」と言いたいのでしょうが、バランシート不況後の長期の景気拡大*1は海外経済に牽引されたものであり、外需の影響は「1%程度」どころではありません。リーマンショックの大きさを思い出せば、外需を軽視できないことは明らかです。

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この「緊縮財政→デフレ→民間部門の過剰貯蓄」の因果関係も誤りです。企業の資金余剰はデフレあるいはディスインフレの結果ではなく原因です。

そもそもデフレが脱却できれば、民需が回復し、民間部門の過剰貯蓄(内部留保)は縮小し、民間部門のトータル収支が「赤字化」していく。そうなれば、政府のPB 赤字を拡大せずとも「ネットの資金需要」が十分確保されることから、名目成長を一定以上に確保することを通して債務対GDP 比を縮小させながら、政府のPB 赤字が着実に縮小していくこととなる。

日本経済の停滞の原因が財政ではなく企業にあることは、バランスシート不況が終了して企業業績が急拡大に転じた2003年度以降も、企業の資金余剰と人件費抑制が継続していることが示しています。

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その理由も過去記事で分析済みですが、簡単に言うと「日本株式会社のオーナーが外国資本に変わり、企業の経営目標も成長から株主利益の最大化に変わった」ことです。*2

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人口減少のために潜在成長率が低いという条件下で資本効率と株主利益を最大化するためには、

  • 投資は国内から海外へ(有形固定資産から投資有価証券へ)
  • 国内投資抑制→資本装備率低下→低賃金労働者の大量動員

が合理的です。実際、バランスシート不況の終了後から、企業は「設備投資によって資本装備率を高める→労働生産性を高める」のではなく、手っ取り早いM&Aや成長率の高い海外投資で「稼ぐ力」を強めています。

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しかしこれは、日本の「低開発化」を意味します。これが安藤議員が危惧する後進国化の原因です。

世界が年率3.5%もの水準で成長し続けている中、日本だけが今日のように成長できずにいれば、日本の相対的国力は著しく低迷することは必至だ。実際、90 年代には17%以上もあった日本の世界のトータルGDP に占める割合が、今日では5%代まで凋落。この傾向が後20 年も続けば、そのシェアは2%程度にまで激しく下落する見通しだ。そうなれば、我が国は先進国ではなく「後進国」といわざるを得ない事態となろう。

「日本の未来を考える勉強会」には、今度は「規制緩和、自由化」「グローバル化」を反転させる提言を考えてもらいたいものです。

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*1:2002年1月~2008年2月、2012年11月~

*2:安藤議員やそれより上の世代であれば、企業もある意味甘くていい加減だった日本的経営から、"austerity"志向に様変わりしたことを実感しているでしょう。