Think outside the box

夏眠中|I shall return.

The Strange Death of Japan: And the End of Civilization

1990年代後半からの構造改革(と称するショック・ドクトリン)の流れをチャートにしてみます。

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以下、引用とグラフで補足説明します。

ケインズ以降の世界に住んでいる我々は、政府が完全ではないにしても、経済をある程度はコントロールできることを知っている。福祉国家はその政府の力を貧困の解決のために使っていた。他方、新自由主義ジームは、同じ力を金持ちと企業の利益のために使っている。政府の力を使う点では共通であるが、その方向は正反対になったのである。 

高度成長は給与増加を目標とすることで実現しましたが、

所得倍増計画は、一橋大の中山伊知郎教授が1959年に読売新聞に寄稿した「賃金二倍論」を、池田がアレンジして「月給二倍論」としたのが始まりだ。

「正しい資本主義*1」の根本規範の株主利益の最大化のために、人件費の最小化(→経済成長の停止)が構造改革の目標=国策となりました。

資本主義においては、利潤原理(企業が[プラスの]利潤を最大化する行動) が根本規範となる。

企業の目的は利潤(profit)を最大にすることである。

そのために、コストをなるべく小さくしようとする。コストを最小にするのが目的である。 *2

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海外の株主に流れる収益も急増しています。

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単位労働コストは金融危機後の賃金抑圧によって他国に比べても異常に低下していますが、これが企業の収益率向上に貢献しています。

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服部が指摘するように、日本の賃金抑圧はアメリカ以上です。

将来、結婚し、一家を支えなければならない男子が、大学を卒業して、非正規労働者になることは、金融危機以前にはほとんど考えられないことであった。

この賃金抑圧こそ新自由主義ジームの最大の特徴の一つであることは、すでに論じた通りである。九〇年代の長期停滞の中で、日本は新自由主義型の賃金停滞経済へと移行したのである。あるいはアメリカを超える賃金低下経済となったとも言えるであろう。

厚生労働省「賃金構造基本統計調査」からは、「結婚し、一家を支えなければならない男子」の多くが「貧しさをエンジョイ」するようになったことが見て取れます。

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私が、若い人に1つだけ言いたいのは、「みなさんには貧しくなる自由がある」ということだ。「何もしたくないなら、何もしなくて大いに結構。その代わりに貧しくなるので、貧しさをエンジョイしたらいい。ただ1つだけ、そのときに頑張って成功した人の足を引っ張るな」と。

自己の利益を最大化することで、かりに他者が不幸になったとしてもそれに何の道徳的責任を感じたりしない「合理的精神」こそが、自由競争の勝者に求められる資質であると言っても過言ではないだろう。

賃金抑圧はGDPの約5割を占める家計消費を抑制します(加えて消費税率の引き上げも)。

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平成不況の本質――雇用と金融から考える (岩波新書)

平成不況の本質――雇用と金融から考える (岩波新書)

ケインズの昔からよく議論されてきたように、対外直接投資は、物的資本の形式的保有者である株主と国民全体の利益を相反させる作用がある。

国内投資から海外への代替が、景気・雇用に悪影響をもたらすことは、植民地への対外直接投資が著しかったイギリスでは、八〇年も昔から周知の事実だったのである。

対外直接投資は設備投資(GDP統計の民間企業設備)の1/4にまで増大しています。

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政府もインフラ輸出には積極的ですが、地方創生にも役立つ国内インフラ整備あるいは「国土強靭化」には無関心なようです。

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日本のエスタブリッシュメント(政財官学)が推進する構造改革とは、賃金抑圧と投資の海外流出によって日本を衰退させるものに他なりません。

エマニュエル・トッドが日本の「唯一の重要事項」とする低出生率も改善せず、昨年の出生数はついに100万人を割り込みました。

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シナリオ通りに日本が停滞している間に、アジア諸国の所得水準は日本に近づき、追い越しています。

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賃金抑圧による消費不足を補うために「観光立国」が推進されています。

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株主利益の最大化には自国民を豊かにする(≒賃金上昇)ことは禁物であり、賃金抑圧の手段の一つが大量の移民です。多様性(→内外無差別)を金科玉条とするリベラル左派も同調します。*3

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安倍首相は就任当初から

もはや国境や国籍にこだわる時代は過ぎ去りました。*4

日本を、能力にあふれる外国人が、もっと活躍しやすい場所にします。*5

一定の条件を満たせば、日本は世界最速級のスピードで永住権を獲得することができる国になります。*6

多くの女性が市場の主人公となるためには、多様な労働環境と、家事の補助、あるいはお年寄りの介護などの分野に外国人のサポートが必要です。*7

あたかもリセットボタンを押したように、日本を一変させる。*8

など"Japan will not be Japan"のために「外人立国(外人天国)」に積極的ですが、Murrayが言うところの「自殺する決意」を固めたヨーロッパの後追いです。*9

The Strange Death of Europe: Immigration, Identity, Islam

The Strange Death of Europe: Immigration, Identity, Islam

Europe is committing suicide. Or at least its leaders have decided to commit suicide. Whether the European people choose to go along with this is, naturally, another matter.*10

I mean that the civilization we know as Europe is in the process of committing suicide and that neither Britain nor any other Western European country can avoid that fate because we all appear to suffer from the same symptoms and maladies. As a result, by the end of the lifespans of most people currently alive Europe will not be Europe and the peoples of Europe will have lost the only place in the world we had to call home.

It has recently been pointed out that Europe is now also led by people without children, including May, Merkel, and Macron, and the Italian, Dutch, and Swedish prime ministers, and more. These are very different people and the causes of childlessness will also be different, and as Weigel notes in some cases this will be experienced with sorrow. But this is surely the first time that Europe, and Europe’s elites, have so clearly turned away from producing the next generation.

千数百年続いた日本文明の終わりが近づいているようですが、ヨーロッパとどちらが先になるでしょうか。

ローマ帝国の崩壊: 文明が終わるということ

ローマ帝国の崩壊: 文明が終わるということ

崩壊以前のローマ人たちは、今日の私たちと同様、彼らの世界が、実質的には変わりなく永遠に続くであろうと疑いもしなかった。彼らは間違っていた。彼らの独善を繰り返さないよう、私たちは賢明でありたいものである。

The Fall of Rome: And the End of Civilization

The Fall of Rome: And the End of Civilization

文明の衝突と21世紀の日本 (集英社新書)

文明の衝突と21世紀の日本 (集英社新書)

補足

構造改革=日本の植民地化」とすれば全体の構図がよく分かります。

  • 外国人株主⇔本国の資本家(オーナー)
  • 日本企業の経営者⇔現地人エリートの事業責任者
  • 日本政府⇔総督府
  • 日本人労働者⇔酷使される現地人
  • 移民⇔他の植民地から連れてくるより安価な労働力(例:黒人奴隷)

植民地経営の目標は「本国への送金の最大化」であり、植民地を豊かにすることではありません。なので、賃上げ、社会保障の充実、インフラ拡充など現地人の厚生は無視され、税金も資本家の取り分を減らす法人税ではなく、現地人が負担する消費税が主となります。「死なぬ様に、生ぬ様に」が植民地統治の秘訣です。

British did not occupy India; Indians invited the British to rule over them, said he.

付記

新大陸に渡った新プロテスタンティズムアメリカのリベラリズムの基底にあるとの指摘ですが、

政府の力をなるべく小さくし、個人の権利を守ろうとする立場をリベラリズムと呼ぶならば、新プロテスタンティズムこそリベラリズムの担い手である。

この社会には国家教会や社会の正統などがないのだから、市場で成功し、勝利した者こそが正義であり、真理であり。正統になる。これがアメリカ的なイデオロギーに宗教が与えた影響であろう。

リベラリズムというよりもネオリベラリズム新自由主義)に近いように思われます。

そうなると不思議なのは、新プロテスタンティズムが受け入れられていない日本で新自由主義ジームが大成功していることです。

しかし不思議なことがある。それは戦後これだけアメリカ化した日本で、アメリカの影響を強く受けた日本で、プロテスタンティズムは受け入れられなかったということである。

それゆえに日本社会においてプロテスタンティズムは異質な存在なのかもしれない。

米百俵の精神」に見られる日本人の我慢好きや「倹約=改革」観が、ネオリベラリズムと共鳴しているのでしょうか。

*1:国民の幸福よりも「正しさ」を優先する一種の原理主義

*2:[引用者注]コスト最小化→デフレ

*3:リベラルにとっては自国民の窮乏よりも多様性の方が重要。移民に反対する日本人は愚かなレイシストとして弾圧されます。

*4:2013年9月25日

*5:2014年5月1日

*6:2016年9月21日

*7:2014年1月22日

*8:2014年6月2日

*9:安倍用語:日本を取り戻す=外人立国

*10:強調は引用者、以下同。