Think outside the box

夏眠中|I shall return.

リフレ派教授の問題だらけの金融理解

アベノミクス第一の矢の量的・質的金融緩和開始前には

岩田さんと黒田さんとスティグリッツさんの話 

今でも私は消費税引き上げはやめた方がいいと断固言い続けますけど、しかし、岩田さんのこの論文を読んで、現実問題として景気挫折の可能性は消えたと思いました。

断言しましょう。大変な好景気がやってきます。バブルを知らない若い世代は、これを見てビビって目を回すでしょう。

次の総選挙は、消費税引き上げ後の多少の混乱を乗り越えたあとの、絶好調の好景気の中で迎えることになります。 

と、日本銀行がマネタリーベースを大量供給すれば消費税増税を乗り越えて絶好調の好景気が訪れるとの楽観論を唱えていたリフレ派の松尾ですが、いつの間にか宗主替えしていたようです。

www.asahi.com

「安倍政権は、事実上、緊縮財政になっているからです。[・・・]緩和マネーは銀行にためこまれるだけでした。このお金が有効に使われていれば、景気が拡大し、もっと早くゴールにたどりついたはずです」

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予測の誤りを認めた松尾ですが、財源は「日銀の作った緩和マネー」と、日銀の関与が必要としている点では完全脱会には至っていないようです。

私が提唱する望ましい景気拡大策は、日銀の作った緩和マネーで、福祉、医療、子育て支援などへ大規模な政府支出をする。その結果雇用が拡大され、消費需要が拡大し、さらに消費財生産が拡大して、そのことが雇用拡大をもたらす。これがグルグル回って、景気が良くなるように持っていくべきだと思っています。

「緩和マネー」については講演会で詳しく説明していますが、その理解には問題があります。

ポスト「アベノミクス」の経済学

ポスト「アベノミクス」の経済学

安倍政権発足後1年たらずは、講演でも申しましたとおり、日銀がたくさんおカネを出すと同時に政府が公共事業を拡大して、その結果、ずいぶん景気が拡大しました。このとき、政府が国債を民間にむけて発行して資金を調達し、玉突き的に日銀が国債を民間から買っておカネを出していたのですが、間に形だけ国債市場をはさんでいるだけで、実質的には日銀が政府から直接国債を買っておカネを渡しているのと変わりません

松尾の言う「緩和マネー」とは日銀当座預金(の超過準備)のことのようですが、これは実体経済活動で使われる市中に存在するマネー=マネーストックとは別物です。マネーストックは銀行貸出のほか、「政府(財務省)が国債を発行する→銀行が買う→政府が財政支出する」によって増加します。「政府が国債を民間にむけて発行して資金を調達し」た時点で財政拡張のための財源は確保されているので、その後に日銀に「緩和マネー」で買ってもらう必要はありません。

下のグラフは、リーマンショック以降のM3の増加が政府向け信用の合計(≒日銀と預金取扱機関の国債保有)の増加とほぼ等しいことを示していますが、増加ペースはQQEの前後でほぼ一定で、日銀の国債保有の増加には影響されていません。マネーストックが創造された後で、銀行等が保有する国債を日銀が日銀当座預金と交換しても(→緩和マネー増加)、マネーストックの量には影響しないためです。

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松尾は「緩和マネーは銀行にためこまれるだけでした」と語っていますが、日銀当座預金はその名の通り、金融機関が相互の資金取引のために日銀の口座に置く預金であり、市中に転貸されるものではありません。そもそもリフレ政策とは、銀行に日銀当座預金の超過準備(豚積み)を無理やり持たせるものなので、この言い訳は意味不明です。*1

以上から判断すると、松尾は国債発行(政府)とマネーストック(銀行)とマネタリーベース(日銀)の関係を根本的に誤解していると言わざるを得ません。この誤解が「日銀が大量に作った緩和マネーを銀行が貯め込まなければ、消費税増税を楽々と乗り越えて大変な好景気がやってくる」という大外れの原因です。

これがリフレ派の実態でした。

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totb.hatenablog.com

付録

最近では財政拡張を主張するリフレ派も増えましたが、「緊縮」の主役は1998年度以降、20年間も資金余剰(黒字)を続ける企業部門です。なので、財政拡張は経済停滞の対症療法にはなっても原因療法にはなりません。

企業が資金余剰なのは、設備投資に比べて内部資金が過剰なためです。

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このことは、利益が過剰(設備投資と人件費が過少)であることを意味します。

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企業の利益率が高すぎることが経済停滞の根本原因であるなら、財政拡張では解決できません。

*1:豚積みが増えると企業と家計がインフレ到来を「合理的に予想」して支出を増やすという、頭がいい人にしか理解できない不可解なメカニズムが想定されていました。