Think outside the box

夏眠中|I shall return.

リフレの整理/安倍首相は財政再建派

アベノミクスの3本の矢(旧)は、

  1. 大胆な金融政策:金融緩和で流通するお金の量を増やし、デフレマインドを払拭
  2. 機動的な財政政策:約10兆円規模の経済対策予算によって、政府が自ら率先して需要を創出
  3. 民間投資を喚起する成長戦略:規制緩和等によって、民間企業や個人が真の実力を発揮できる社会へ

でした。

金融政策の量的・質的金融緩和(QQE)の源流は、クルーグマンが1998年に発表した"Japan's trap"と"It’s Baaack: Japan’s Slump and the Return of the Liquidity Trap"にあります。

ゼロ金利の経済停滞からの脱却には、ケインズのものが効果的とされてきましたが、

「回復」の初期段階における主要な原動力として、租税を通じての既存所得からの単なる移転ではない、公債によって資金調達された政府支出の購買力の圧倒的な力を、私は強調したい。[・・・]不況期には、政府の公債支出が物価上昇と生産増加をすばやく実現する唯一確実な方法であり、戦争が常に産業活動を力強く促進してきたことが、その証である。*1 

クルーグマンは「インフレターゲット中央銀行の大量の資金供給で期待に働きかける」という政府債務を増加させない金融政策オンリーの方法を唱え、その信者たちによっていわゆるリフレ派が形成されることになりました。

このリフレ1.0では、銀行が保有する国債が大量に日銀当座預金と交換されます(下の概念図のA→B)。

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QQEは2年間でマネタリーベースを2倍に増やして2%インフレを達成するとしていましたが、4年半が経過した現時点では、その失敗は明白です。

リフレ1.0の失敗を受けてのクルーグマンの修正案が、巨額の財政拡張の財源を日銀がファイナンスするリフレ2.0です(A→C)。松尾匡の「日銀の緩和マネーで政府支出」もこれにあたります。

The only way to be at all sure of raising inflation is to accompany a changed monetary regime with a burst of fiscal stimulus. 

What Japan needs (and the rest of us may well be following the same path) is really aggressive policy, using fiscal and monetary policy to boost inflation, and setting the target high enough that it’s sustainable.

リフレ2.0に効果があることは確実ですが、日銀がゼロ金利(または超低金利政策)を続けていれば、国債は銀行等の民間で消化されるので、日銀が買い入れる必要はありません(A→D)。つまり、リフレ2.0とは単なる財政政策を金融政策のレジームチェンジに偽装するものに過ぎないということです(結局はケインズと同じ)。

「失われた20年」は、藪医者クルーグマンとその信者が信奉する代替医療に振り回された期間でもありました。

  • 企業のdeleveragingとfinancilization(付録②を参照)が原因のデフレを日銀のマネタリーベース供給不足と誤診する。
  • リフレ1.0(managed inflation)という新たな治療法を考案して日本に勧める。
  • QQEが失敗するとリフレ2.0を代わりに勧める。

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ところで、安倍内閣総理大臣は9月25日の記者会見で

つけを未来の世代に回すようなことがあってはならない。人づくり革命を力強く進めていくためには、その安定財源として、再来年10月に予定される消費税率10%への引上げによる財源を活用しなければならないと、私は判断いたしました。

他方で、2020年度のプライマリーバランス黒字化目標の達成は、困難となります。しかし、安倍政権は財政再建の旗を降ろすことはありません。プライマリーバランスの黒字化を目指すという目標自体はしっかりと堅持します。引き続き、歳出・歳入両面からの改革を続け、今後達成に向けた具体的な計画を策定いたします。

と、増税財政再建派であることを明確にし、一部リフレ派を混乱させているようですが、そもそも第二の矢の財政政策は「機動的」であってケインズ的な「拡張」とは異なります。安倍首相は最初から財政再建派であり、「大胆な金融緩和」に積極的だったのは政府債務を増加させない景気刺激策と信じていた(リフレ派に騙されていた)ためとすれば辻褄が合います。

安倍首相がインフラ投資に積極的だったという誤解もありますが、

アベノミクスにおいて、安倍政権が国土強靱化をはじめとするインフラ投資に躍起になっていることは嘆かわしい。あまりにも近視眼的で、ただ橋を何本つくり替えるとかいった施策を進めているだけに過ぎないからです。 

一般会計歳出(当初予算*2)の公共事業関係費は、「コンクリートから人へ」の民主党政権時代よりは増額されているものの、低水準に据え置かれています。増えているのは防衛関係費ですが、微増にとどまっています。

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全体を見ても、積極財政派でないことは確実です。

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安倍首相が規制緩和や海外需要・対内投資呼び込み(例:観光立国)、さらには「○○革命」に異常なほど熱心なのも、国債増発による財政支出拡大を嫌っているためだとすれば辻褄が合います。ケインズ的な「標準治療」を拒否しているため、無茶な「代替医療」に次々と飛びついているわけです。*3

アベノミクスとは、財政再建と経済成長を両立させる銀の弾丸探しだったということでしょう。

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付録①

日本経済の金回りを滞らせているのは20年間も資金余剰を続ける企業部門ですが、企業をそのような行動に仕向けているのは、高度成長期並みのリターンを要求する株主からの圧力です。

president.jp

外国人投資家は日本企業に対し、欧米やアジアの企業と同水準のリターンを求める。相対的に潜在成長率が低いにもかかわらず、世界標準のROE自己資本利益率)が期待されるわけだ。

昨年まで、米国の名目GDP成長率5~6%に対し、日本はゼロ。パイが大きくならないのに、リターンは同じにせよ、というのは高すぎる要求である。

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結果、株主への配当は増えても、労働賃金は増えない。つまり、配当期待という圧力が、労働分配率を抑えているのである。

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少子高齢化・人口減少の制約条件の下で高リターンを目指す企業行動が、

  • 労働分配率の引き下げ→人件費抑制→家計消費抑制
  • 投資を低成長の国内から高成長の海外にシフト→設備投資抑制

と民間需要を抑制して日本経済を永久停滞に閉じ込めているわけです。*4

企業経営の変化というミクロが原因なのだから、マクロの金融政策・財政政策では解決できないことを認めましょう。

付録②

株主利益(≒資本効率)の最大化が企業の"financialization"(投資会社化)と経済成長率の低下を引き起こしているとの指摘がありますが、

これは日本にも当てはまります。 

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付録③

法人税は「金を使い残すことへのペナルティ」なので、税率引き下げは支出(費用)を抑制するインセンティブを強化します。一方、消費税は「金を使うことへのペナルティ」なので、税率引き上げは支出を抑制します。実際、消費税率上げ&法人税率下げの1997-98年から、日本経済は名目ベースでの成長を停止しています。

安倍首相は法人税率下げ&消費税率上げによって、日本経済の金回りをさらに滞らせることを狙っているようです。

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*1:ルーズベルト大統領への公開書簡」

*2:財政政策に関するスタンスが表れる。

*3:安倍首相支持の論拠の一つに「経済が分かっている」がありますが、実は全く分かっていなかったようです。

*4:定年間近のおっさんに成長期の若者と同じ動きをさせたら、体が壊れて当然でしょう。日本経済も同様の無理によって崩壊に向かっているのです。