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「本当の資本主義」で救われなかった日本経済

小室直樹は1997年に『小室直樹の資本主義原論』で、日本経済が資本主義の条件(⇩)を満たしていないと厳しく批判し、

企業は株主の所有物である。株主は企業を使用して収益を得る。どのように使用し、どんな収益を得ても自由である。

資本主義の企業は、株主に最大の利益(配当)をもたらすことを以て、その目的とする。[・・・]資本主義では、利潤最大を目的とする企業が株主の所有物であることの当然の結論であって、疑点の在り様がない。*1

企業の目的は利潤(profit)を最大にすることである。

そのために、コストをなるべく小さくしようとする。コストを最小にするのが目的である。 

不況脱出のためには「株主が企業を、叩き売りされるバナナの如く自由に売買」できるアメリカや、自由放任に近かった戦前の日本のような「本当の資本主義」に変えることが必要と説いていました。要するに、ネオリベラリズム/株主資本主義が日本を救う、という主張です。

1997年秋の金融危機を契機に、日本企業は小室の期待通りに株主重視経営に大転換します。それが一目で分かるのが次のグラフです。*2

日本経済が平均4%の安定成長に移行した1975年度からバブル崩壊後の景気後退が始まる1991年度まで、人件費(従業員)と配当金(株主)の伸び率はほぼ同じです。

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バブル崩壊金融危機不良債権処理&企業リストラと続く期間(1992年度~2001年度)は、株主が(本来の役割である)リスクの引き受け手になりました。

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戦後最長の景気拡大が始まった2002年度からはそれが一転して、配当金が一方的に増加しています。人件費に対する配当金の比率は、バブル崩壊前の約5倍です。

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人件費抑圧(コストの最小化)と配当金の激増は、企業が「本当の資本主義」に目覚めたことを意味しますが、小室の予測とは逆に、日本経済は復活するどころか地盤沈下する一方です。*3

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Lazonickは、経済学者が広めた「株主利益の最大化」の経営理論のために「従業員も報われるべき」という常識が失われたことが、経済にも悪影響を与えていると指摘しています。

But where does the company’s value actually come from? It comes from employees who use their collective and cumulative learning to satisfy customers with great products. It follows that these employees are the ones who should be rewarded when the business is a success. We’ve become blinded to this simple, obvious logic.*4

これは原丈人の「公益資本主義」と共通します。

大戦前の「株主の私物」の企業(狼)を、株主の力を弱めて社会の公器(犬)に改良したことが大戦後の先進国の高度成長の一因だったのに、経済学者の「犬を本来の姿の狼に戻すべきだ」との主張に従ったために、消費者でもある従業員が食い殺されて経済停滞に陥ってしまったというわけです。*5

失われた〈20年〉

失われた〈20年〉

「企業は、株主にどれだけ報いるかだ。雇用や国のあり方まで経営者が考える必要はない」

「それはあなた、国賊だ。我々はそんな気持ちで経営をやってきたんじゃない」

94年2月25日、千葉県浦安市舞浜の高級ホテル「ヒルトン東京ベイ」。大手企業のトップら14人が新しい日本型経営を提案するため、泊まり込みで激しい議論を繰り広げた。論争の中心になったのが「雇用重視」を掲げる新日本製鉄社長の今井敬と、「株主重視」への転換を唱えるオリックス社長の宮内義彦だった。経済界で「今井・宮内論争」と言われる。 

トランプ大統領が誕生してしまうなど、「本当の資本主義」の欠陥が世界中で問題化する中で、安倍首相は日本にはグローバル株主資本主義の道しかない(There is no alternative.)と猪突猛進していますが、

「TINA」と、故サッチャー首相の言葉を使って、この道以外ないのだと言いました。*6

引き返す勇気も必要ではないでしょうか。*7

付録①

従業員に報いない「本当の資本主義」をフェミニストが支持したことも見過ごせません。「夫の給料を下げる→妻も働かなければ生活できなくなる」が、安倍首相とフェミニストが理想とする一億総活躍社会です。

正規雇用者の給料を下げて、夫に600万円払っているのなら、夫に300万円、妻に300万円払うようにすれば、納税者も増えます。

バックラッシュ!  なぜジェンダーフリーは叩かれたのか?

バックラッシュ! なぜジェンダーフリーは叩かれたのか?

男女共同参画社会は、新自由主義的なベクトルとフェミニズムとの妥協の産物だ」というのは、100パーセント正しいと思います。

付録②

1997年に『不機嫌な時代』で日中逆転・中国人の日本浸透のシナリオ「大逆転」を描いたピーター・タスカには、学者馬鹿の小室よりも洞察力があったようです。

不機嫌な時代―JAPAN2020

不機嫌な時代―JAPAN2020

付録③

安倍首相は2016年12月5日の参議院環太平洋パートナーシップ協定等に関する特別委員会で

この公益資本主義、原丈人さんが主張されている考え方でありまして、委員長も大変お詳しいわけでございますが、大変魅力的な考え方だと思っております。

基本的に、我が国というのは古来より、額に汗して朝から田を耕し、そして水を分かち合い、秋には共に五穀豊穣を祈り合ってきた民族でございまして、一人の人が全部取っていく、それを取った人が分けるという、そういう社会ではなかったんだろうと、こう思います。ですから、我が国にふさわしい資本主義の在り方にこの考え方は似ているのではないかと、このように思うわけでございます。

そこで、ただ所有する、あるいは株を動かすだけで利益を上げてそこに利益が集中するという社会であれば、やはり社会はゆがんでいく、そしてそれに耐えられなくなった社会が、これはそのときに大きな変革を求めて混乱するということになってしまうんだろうと、このように思います。

いずれにせよ、頑張った人が報われる、汗を流した人が報われる社会をどのようにつくっていくか、そして一人の人に富が集中しない社会をどのようにつくっていくかということが大切ではないか。こうした新しい発想に取り組んでいく上においても、しっかりとまずは生産性を上げて競争力を付けていく。

幸い、今、企業は過去最高の収益を上げている。収益を上げていく中において、しっかりと分配を考えていくということが求められているんだろうと。それは、今おっしゃったように、ちゃんと賃金を上げていく、もちろん株主の利益を図っていくことも重要ですが、そしてさらに未来への投資をしっかりと行っていくことによって経済を回していく、成長と分配の好循環をしっかりと回していくことがより良き未来につながっていくのではないかと、このように思います。

と発言していますが、「この道」は明らかに公益資本主義とは別物です。

平気でうそをつく人たち―虚偽と邪悪の心理学

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*1:強調は引用者。

*2:財務省「法人企業統計」の資本金10億円以上の全産業(金融業、保険業を除く)、人件費=従業員給与+従業員賞与+福利厚生費

*3:有害思想のアジテーターの小室直樹は2010年に死にましたが、生きていたらどのように言い訳したでしょうか。

*4:強調は引用者。

*5:日本はアメリカのように「従業員殺し」を人口増加で相殺できないため、経済への悪影響が甚大になる。企業に自国民を攻撃させながら、需要不足を外国人(特に中国人)で補うのが「観光立国」。

*6:2014年5月1日

*7:豊富な石油資源に恵まれたベネズエラ社会主義、高い技術力で"Japan As Number One"と言われた日本は新自由主義のために自滅しつつあります。ケインズが『一般理論』に書いたように、真に危険なのは思想(ideas)でした。