Think outside the box

MAKE JAPAN GREAT AGAIN

リフレ派の現実逃避とデフレの正体

戦時中は勇ましいことを言っていた軍国主義者が、敗戦後に「自分は平和主義者」と言い出したことがよくあったそうですが、リフレ派も似た状況になってきました。

リフレ(managed inflation)とは、このような論理構造です。

  • 物価はマネーストックによって決まり、通常、マネーストック中央銀行のマネタリーベース供給量によって決まる。従って、物価はマネタリーベースの量(中央銀行の匙加減)によって決まる。
  • 将来の物価水準の予想値は、現時点で中央銀行が確約した将来のマネタリーベース供給量によって決まる。
  • 従って、ゼロ金利においても、中央銀行は将来のマネタリーベース供給量を増やすと確約することで、現在のインフレ率を引き上げることができる。

リフレ論争の発端となったクルーグマンの1998年の"It’s Baaack: Japan’s Slump and the Return of the Liquidity Trap"にある通りです。

Indeed, the normal view is that money is roughly neutral: that an increase in the money supply produces a roughly equiproportional increase in the general price level. Or to be more specific, an increase in outside money―the monetary base―must raise prices. *1

日本銀行副総裁の岩田規久男をはじめとする日本のリフレ派も、マネタリーベースの量が重要と主張していました。

アベノミクス大論争 (文春新書)

アベノミクス大論争 (文春新書)

市場が「日銀はやる気だ」と思えば、2%の物価上昇に必要なマネタリーベースは150兆円程度と試算される。*2

岩田規久男日本銀行副総裁の就任記者会見における発言(2013年3月22日)

2年経って、2%がまだ達成できない、2%近くになってもまだ達成できていない場合には、まず果たすべきは説明責任だと思います。ただ、その説明責任を自分で果たせないということ、単なる自分のミスジャッジだったということであれば、最高の責任の取り方は、やはり辞任だと思っています。

山形浩生「亀井氏の正しい日銀批判」(『Voice』2010年1月号)

さて、この処方箋は簡単だ。インフレ期待を起こせばいい。これほど簡単なことはない。日本銀行がお金をいっぱい刷り、これからも当分そうしますよ、といえばいい。

円高の正体 (光文社新書)

円高の正体 (光文社新書)

マネタリーベースを200兆円まで拡大すれば、「1ドル=115円」までの円安局面が訪れ、日本経済はデフレから脱却し(その時のインフレ率は3%程度)、4%の名目経済成長が訪れ、日本経済は完全復活を遂げることができる。

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ところが、現代ビジネスの記事で安達は

量的緩和が本格的に始まった2000年代初めにも議論されたことであるが、ほぼゼロ金利国債を購入してせいぜい-0.1%の当座預金残高を増やしたとしても、これは、現金等価物同士の交換に過ぎず、「ポートフォリオリバランス効果」は発現しないためである。

最大の問題点は、「マネタリーベースから予想インフレ率」への理論的な因果関係が不明であることだ。

量的緩和に成功し、現在は順調に「出口政策」を実行しつつある米国でも、「量(マネタリーベース)」自体に意味を見出している学者やエコノミストはごく少数である。*3

と、リフレ派とは思えない衝撃的な内容を書いています。*4

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もっとも、完全脱会には至らず、

日本がデフレを完全克服するためには、一旦、財政規律を放棄して大胆な財政拡張を行った上で、それを金融政策がファイナンスするという考え方である(「受動的な(Passive)」金融政策と「能動的な(Active)」財政政策の組合せ)。

としていますが、日銀は低金利政策を続ければ十分で、財政拡張のための国債を引き受けて量的緩和する必要はありません。1930年代のいわゆる「高橋財政」でも、日銀はいったん引き受けた国債の大部分を売りオペで民間に買い取らせました(QQEの逆)。*5

事態がリフレ派が予測していた通りに進まなかったのは、

  • マネタリーベースは銀行の信用創造の原因ではなく結果である
  • 日本経済の停滞の原因は日銀の金融緩和不足ではない

ためです。

日本経済の停滞の主因は、企業(特に大企業)の行動原理が「株主利益の最大化のために人件費を最小化」になったことです。*6

財務省「法人企業統計」から資本金10億円以上の全産業(金融業、保険業を除く)の付加価値の内訳の推移を見ると、金融危機の1997年度から人件費抑圧が本格化し、

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企業のリストラが完了した2002年度以降は、営業純益と配当金(資本の取り分)が一方的に増大しています。

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人件費と物価の関係は「人件費抑圧→労働集約的なサービスの価格の抑制→サービス/財の相対価格の抑制」です。家計の購買力がGDPの数%分奪われていることが日本のデフレの正体なので、日銀にはどうすることもできません。

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いつまで日銀に「何とかしろ」と言い続けるつもりでしょうか。*7

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これ(⇧)を増やさないことが構造改革の目標/日本の国策

付録

センも日本経済を全く理解していないことがよく分かります。「スウェーデン国立銀行賞」「ハーバードの知性」もこの程度です。

アベノミクスの三本の矢とは、

  1. 国債と日銀当座預金を大量交換する無意味な金融政策
  2. 緊縮気味の財政政策
  3. 国民生活ではなくグローバル資本・企業の儲けのための成長戦略*8

であり、これが「世界のモデル」とは笑止千万です。

参考までに安倍語録です。誰の方を向いているのか明らかでしょう。

もはや国境や国籍にこだわる時代は過ぎ去りました。

日本を、能力にあふれる外国人が、もっと活躍しやすい場所にします。

外国の企業・人が、最も仕事をしやすい国に、日本は変わっていきます。

あたかもリセットボタンを押したように、日本を一変させる。

totb.hatenablog.com

totb.hatenablog.com

*1:強調は引用者、以下同。

*2:岩田規久男

*3:[引用者注]アメリカの量的緩和はいわゆるリフレ政策ではなく、リーマンショック後の信用収縮に対する信用緩和(credit easing)です。日銀のQQEが目標とするインフレ率引き上げに成功したのではありません。

*4:これらはリフレ批判派のロジックそのもの。

*5:日銀引き受けの目的は大量の国債発行を円滑に処理する「調整池」の役割を果たすことであり、財政資金のファイナンスではなかった。

*6:労働所得の最小化≒一般国民の貧困化が日本の国策になったということ。その実行犯が企業、教唆・幇助しているのが株主と政府です。20年間も政府が貧国弱兵を進めていることに気付かないnaïveな国民にも問題があります。

*7:リベラルがネオリベラルの手先になったように、元来は構造改革に賛成のリフレ派がグローバル投資家勢力に取り込まれ、その目的が「政府の自国民窮乏化政策から国民の目を逸らすこと」に変わったとすれば辻褄が合います。

*8:国家戦略特区はそのための仕組み