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日本のエンゲル係数とソ連の乳児死亡率

エンゲル係数の記事の補足です。

totb.hatenablog.com

再度、吉川洋の解説を引用します。

Kei2007年1月号

先進国の経済成長を考えるとき、念頭に置くべき鉄則がある。それは「個別の財・サービスの需要は、いつか必ず飽和する」というものだ。

わかりやすい例として「エンゲル法則」が挙げられよう。家計が豊かになるに従って食費の占める比率は下がっていくという法則だ。これは、食費の支出はあるところで頭打ちになる(需要が飽和する)ことを示している。*1

エンゲル法則は「“食”の需要は他の多くの財・サービスよりも先に飽和する(→支出弾力性が1未満)」という単純だが確固とした普遍的事実に立脚しているが故に「鉄則」となっています。

エンゲル係数が示すのは家計の豊かさ(≒所得水準)であって景気の良し悪しではないことには注意が必要です。現在とバブル期の水準がほぼ同じであることは「現在はバブル期に匹敵する好景気」であることを意味しません。「エンゲル係数は時代遅れの無意味な指標」と解釈するのも適切ではありません。

エンゲル係数の2013年以降の急上昇は、主に食料価格上昇と消費税率引き上げ後の食品以外の消費支出の減少によるものですが、*2

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それよりも重大なのは、長期低下トレンドが1990年代後半に終焉したことです。*3

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これは1997年秋の金融危機を契機に、企業の株主重視経営への構造転換(→賃金抑圧と雇用の不安定化)が急進したことの反映と見られます。

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失われた〈20年〉

失われた〈20年〉

「企業は、株主にどれだけ報いるかだ。雇用や国のあり方まで経営者が考える必要はない」

「それはあなた、国賊だ。我々はそんな気持ちで経営をやってきたんじゃない」

94年2月25日、千葉県浦安市舞浜の高級ホテル「ヒルトン東京ベイ」。大手企業のトップら14人が新しい日本型経営を提案するため、泊まり込みで激しい議論を繰り広げた。論争の中心になったのが「雇用重視」を掲げる新日本製鉄社長の今井敬と、「株主重視」への転換を唱えるオリックス社長の宮内義彦だった。経済界で「今井・宮内論争」と言われる。 

エマニュエル・トッドは乳児死亡率の上昇からソビエト連邦の崩壊を予測したことで有名ですが、

最後の転落 〔ソ連崩壊のシナリオ〕

最後の転落 〔ソ連崩壊のシナリオ〕

ロシアの乳児死亡率は、1971年から1974年までの間に上昇し、その後この単純な指数は公式統計から姿を消す。これは東方において「何かが起こっている」明白な証拠だと、私には思われた。

新生児とは特有の脆弱さを持つ存在であるから、全国規模での経済的、社会的もしくは政治的な混乱は、どんなものであれ必ず、新生児の死亡率に影響を及ぼすのである。

日本のエンゲル係数の低下が止まったことも、日本経済に「何かが起こっている」明白な証拠だと思われます。「何か」とは、家計を豊かにしない株主総取りシステムへの構造変化です。

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エンゲル係数以外にも、60歳代の就業率急上昇*4外国人労働者の急増*5など不吉な指標はありますが、これでも日本経済を楽観視できるでしょうか。*6

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参考 

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家計消費に分類される財・サービスが異なるため、日米の水準を単純比較できないことに注意。

wired.jp 

中東専門家の中には、食料価格の上昇は「アラブの春」のきっかけとなり、長く抑え込まれていた緊張と怒りに火をつけたとする意見がある。

*1:強調は引用者。

*2:食料価格上昇と消費税率引き上げは共に家計を貧しくする要因ですが、これに家計が「食費の増加(←食べる量を維持)+その他の支出抑制」で対応し、エンゲル係数が上昇したことは、エンゲル法則の有効性を意味します。

*3:仮にエンゲル係数の低下が止まった原因が人口の高齢化だったとしても、そのことは日本経済が無問題であることを意味しません。「階段を駆け上がれなくなった→原因は老化→無問題」とはならないのと同じです。老化(劣化)それ自体が問題なのです。

*4:60歳でリタイアできなくなった。

*5:安倍政権下の5年間で60万人増(1.9倍)

*6:神州不滅ではないことは1945年に学習したはずですが。