Think outside the box

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グリッドガール廃止とリベラルの信念

F1がグリッドガールを廃止してグリッドキッズに変更することになりましたが、

これを単なる"sexism"批判への対応と見るのは早計で、根底にはリベラル(≒左派)の「完全無欠な社会を築く」という信念があります。

現実的な左翼に進化する 進化論の現在 (シリーズ「進化論の現在」)

現実的な左翼に進化する 進化論の現在 (シリーズ「進化論の現在」)

少なくともプラトンの『国家』以来、完全無欠な社会を築くという概念は西洋人の意識のなかにあり続けている。左派は存在する限りずっと誰もが仲良くて、協力しあい、自由で平和に生きていける社会を追求してきたのだ。

リベラルの人間観とは、

  • 人間を決めるのは精神(ソフト)→肉体(ハード)の差異は無視できる
  • 精神(ソフト)は白紙で生まれてくる→内面はすべて後天的(社会的)に形成される

というものです。なので、生物学的なsexよりも社会的なgenderが重要であり、ジェンダーは生まれつきには決まらず、後天的に決まる(本人が決める)ものとなります。

トッド氏は「多くの人に取って、ジェンダーが純粋に社会的に形成されるものではないという考え方は、心地よくないもののようです」と述べています。トッド氏はこの考え方を示す人たちについて、「ジェンダーは社会的要素を反映するもので、完全に可鍛性のもの(=状況に応じて変化するもの)である』と考える、いわゆる『左派』と呼ばれる勢力に多くみられる」と考えているとのこと。*1

このような信念を持つリベラルから見ると、男はレーサーやメカニック(輝く仕事)、女はグリッドガールに分かれている現実は修正されなければなりません。グリッドガールという仕事があるから女が"pawns in a very male game"に安住して「輝く仕事」を目指さなくなってしまうので、グリッドガールを廃止すれば女が男に交じって輝くようになる、というのがリベラルの信念です。

There are many people who say these girls choose to become grid girls and we shouldn't take away their ability to earn money and have a job that exposes them to a lifestyle that otherwise they might not be able to have. Sure, I get that -- but I also believe we are in an important moment in gender equality. 

I hope boxing and cycling are next to decide that women have a better place than just being a token gesture in their sports. When there are so many amazing women competing at the highest level and being such brilliant role models for the next generation let's celebrate them and the future and not romanticise about a bygone era which should be consigned to the history books of sport.

リベラルの信念については下の記事の分析が的確なので、長めに引用します(詳しくは本文を)。

To be fair, I think it’s important to emphasise that—while left-leaning thinkers have attempted to identify the causes of gender and other societal elements—they’re generally far more interested in changing society than in describing it. So what really matters to them is not whether biology influences human social behaviour, but whether it stands in the way of changing it. Hence, views like Peterson’s are typically not deemed false, but morally deficient. The assumption is that society should be changed to become more egalitarian, and anyone who objects—for example by pointing to human nature—is viewed as standing in the way of progress, expressed in phrases such as ‘defending the status quo’ or ‘justifying oppression’ or ‘reactionary’. 

It’s clear why people who want to change society are drawn to the belief that culture is the sole cause of our behaviour: culture is much easier to change than biology. Pass a few laws, make some adjustments to the language, introduce a new set of schoolbooks, and people will no longer resist the push towards equality. If bad culture is leading people to resist equality, then all one has to do is replace it with good culture.

しかし、人間も哺乳類の一種である以上、生物学的な性が行動に影響しないわけがありません。高度な身体能力を必要とするF1レーサーや格闘家がmale-dominatedになるのは当然です。また、世界一男女同等化が進んでいる北欧諸国でも自動車修理工がmale-dominatedな職業の一つであることは、興味にも生まれつきの男女差があることを示しています。*2

カナダの臨床心理学者Jordan Petersonも先日のインタビュー(というよりディベート)番組での13分25秒~で触れていますが、北欧諸国では、男女の職業選択は収斂とは逆に向かう傾向にあります。

The XX Factor: How the Rise of Working Women Has Created a Far Less Equal World

The XX Factor: How the Rise of Working Women Has Created a Far Less Equal World

They have professional occupations where women are succeeding alongside men. And then they have lower-paid occupations which are overwhelmingly female or overwhelmingly male. [...] in Scandinavia the divide between the two is even larger and sharper than for the rest of us.  

グリッドガールラウンドガールは、女が男に比べて身体能力に劣ったりメカへの興味が乏しい反面、"glamour"には優れていることを活かした「適材適所」な仕事ですが、「男は力/女は美」の構図がリベラルの信念に反するために、存在そのものが否定されてしまうのです。

グリッドガールの仕事を失った女が"lower-paid occupations which are overwhelmingly female"に移ることは、"glamour"とは無関係の"professional occupations"の女との格差の拡大要因になります。つまり、エリート女は"gender equality"の名の下に"far less equal world"を作り上げようとしているのです。エリート女が結局のところは自己利益にしか関心がないことは、高給専門職は男女同数を要求しても、低賃金職や肉体労働の男女同数は要求しないことが示しています。*3*4

What Norway now has is a new group of “golden skirts”: a small group of women who are very rich indeed. *5

As a feminist cause, boardroom quotas ought to be a bust. In fact, they are of a piece with much of the modern feminist media: a combination of elite self-interest and preoccupation with imagery.

Sisterhood” is dead. Different women have very different lives, and interests.

下はピーター・シンガーの著書からの引用ですが、

二〇世紀に入り、人間は完全であるという夢は、スターリンソ連文化大革命下の中国、ポル・ポト政権下のカンボジアで大変な悪夢と化した。そしてこの悪夢から目覚めた左派は大混乱に陥ったのである。

現代西洋のリベラリズムが、ある面、共産主義に似てきたのは当然で、計画経済と市場経済新自由主義)は異なるものの、人間観と「完全無欠な社会を築く」という理念は同じだからです。エリートが夢想する「完全無欠な社会」が大衆にとってはディストピアになることは歴史が証明しています。*6

日本経済の変容―倫理の喪失を超えて

日本経済の変容―倫理の喪失を超えて

原理主義マルクス主義を学んだ者の多くが[・・・]一転して、原理主義的市場信仰論者に変わっていく。[・・・]かれらは、いずれの場合にも、イデオロギーで現実をとらえようとする観念論者なのである。

「西洋」の終わり 世界の繁栄を取り戻すために

「西洋」の終わり 世界の繁栄を取り戻すために

totb.hatenablog.com

おまけ

権力を追い求める男性が、特に若くて美しい女性たちを支配する力を追求する人物であるのは、偶然の一致ではない。

動物の雄が雌を巡って争うように、人間の男も女を取り合うように進化しています。男の「力」は女を得るために発達したので、勝者・強者となった男が女に対して動物的な積極性(攻撃性)を示すことは何ら不思議ではありません。「特に若くて美しい女性たちを支配」しようとするのは、健康優良児を産んでくれる可能性が高いためです。

スポーツ遺伝子は勝者を決めるか?──アスリートの科学 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

スポーツ遺伝子は勝者を決めるか?──アスリートの科学 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

大地にしばりつけられた霊長類である私たち、特に男について、あまり喜べない概念が暗黙のうちに示される。一つは、男にある形質が選択されたため、互いに傷つけ殺し、威嚇し合うようになったこと。二つ目は、傷つけ殺し、威嚇することが誰よりも得意になった男は、その力を使って複数の女をめとり、多くの子孫を残すようになったこと。

アジア人男性1600万人――世界の男性の約0.5%――が、ほぼ同一のY染色体を持っているのだ。これはチンギス・ハンから受け継いだものと遺伝学者は考えており、チンギス・ハンには数百人の妻と側室がいたというのは、有名な話である。

*1:強調は引用者、以下同。

*2:スウェーデンでは96%、ノルウェーでは98%が男。

*3:CEOやITエンジニアに男が多いことは差別と騒いでアファーマティブアクションを要求するが、大工や土方や漁師に男が多いことや、看護や保育や家事代行に女が多いことは無視。

*4:Kildenの記事"Talk of equality is risky business for career in the oil industry"によると、ノルウェーの石油産業では中間管理職のうち女は9%だが、上級管理職では16%と割合がほぼ倍増する。

*5:[引用者注]#MeToo運動の中心のハリウッドの女優たちもこのお仲間。女優達はグリッドガールのような脇役ではないので、露出狂のような格好で"glamour"をアピールすることはむしろ肯定されます。

*6:現代リベラリズムとは、経済システムを修正した「修正共産主義」のようなもの。