Think outside the box

夏眠中|I shall return.

"It’s Baaack"から20年経っても間違え続けるクルーグマン

2017年フェイクニュース大賞を受賞したクルーグマンが"It’s Baaack, Twenty Years Later"を公開していますが、20年経っても根本的に間違っていることに気付かずに自画自賛しています。

Or if you like, it was missing a word: permanent money issuance would raise the price level. But a monetary expansion the private sector expected to be temporary, to be wound down after the crisis had passed, would do nothing at all: the extra monetary base would just sit there. *1

Base expansion would also have little effect on broad monetary aggregates like M2, not because of some failure in the transmission mechanism, but because intermediaries would have no incentive to lend out excess reserves 

In retrospect, these propositions may seem obvious.

クルーグマン

  1. 中央銀行のマネタリーベース供給が起点となってマネーストックが増加する。
  2. マネタリーベース増加がpermanentと受け止められると超過準備が銀行から貸し出されてマネーストック増加につながる。
  3. マネタリーベース増加がtemporaryと受け止められると超過準備は銀行に滞留したままでマネーストック増加につながらない。

としていますが、そもそも1.が間違いであることは中央銀行が度々指摘しています。

イングランド銀行の"Money creation in the modern economy"

A related misconception is that banks can lend out their reserves. Reserves can only be lent between banks, since consumers do not have access to reserves accounts at the Bank of England.

ドイツ連邦銀行の"The role of banks, non- banks and the centralbank in the money creation process"

What the stylised example of the creation of money shows particularly clearly is that a bank can grant loans without any prior inflows of customer deposits. In fact, book money is created as a result of an accounting entry: when a bank grants a loan, it posts the associated credit entry for the customer as a sight deposit by the latter and therefore as a liability on the liability side of its own balance sheet. This refutes a popular misconception that banks act simply as intermediaries at the time of lending – ie that banks can only grant loans using funds placed with them previously as deposits by other customers

And a bank’s ability to grant loans and create money has nothing to do with whether it already has excess reserves or deposits at its disposal. Instead, various economic and regulatory factors constrain the process of money creation. From the perspective of banks, the creation of money is limited by the need for individual banks to lend profitably and also by micro and macroprudential regulations. Non- banks’ demand for credit and portfolio behaviour likewise act to curtail the creation of money.

銀行預金は銀行の信用供与(⇔誰かの負債増加)によって創造されるもので、マネタリーベース(central bank money)は銀行間の預金の移動の媒体として中央銀行が供給するものです。マネタリーベースは銀行の信用創造の種銭ではありません。*2

銀行預金(book money)の創造を原子力発電に例えると、

  • 銀行:資金需要があると核分裂する核燃料
  • 中央銀行:制御棒
  • 制御棒の出し/入れ:短期金融市場金利の下げ/上げ
  • 高インフレ・バブル:暴走

のようなものです。

資金需要がある限り、制御棒を適切に出し入れすることで安定的に発電を続けられますが、資金需要がなくなると核燃料が「燃え尽きて」しまうため、制御棒を引き抜いても発電できません。

発電再開には制御棒ではなく核燃料のレジームチェンジ、具体的には

  • 企業の需要見通しが上向く(→予想投資収益率がハードルレートを上回る)
  • 政府が財政支出のために国債を増発する

のどちらかが必要です。*3

クルーグマン中央銀行が“credibly promise to be irresponsible”つまりは「暴走しても制御棒を挿入しない」と約束すれば資金需要が湧いてくるとしていますが、因果関係が「銀行預金→マネタリーベース」であってその逆の「銀行はマネタリーベースを種銭にして預金を創造する」ではない以上、そうはなりません。

しかしながら、誤りを認められないクルーグマンは、このようなグラフから日本銀行レジームチェンジが効いたと評価しています。

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Despite being at (or slightly below) the zero lower bound, the Bank of Japan evidently managed to achieve considerable traction. It has not so far managed to achieve the inflation target, but at least the Japanese experiment suggests some support for the view that monetary regime change can be effective even at the zero lower bound.

安倍政権誕生前から進んだ円安・株高に資産効果があったことは確かですが、2013年からの名目GDPの劇的な増加には、

  • 消費税率引き上げ前の駆け込み需要
  • 消費税収の増加
  • 鉱物性燃料価格低下
  • 中国の需要増大

など、量的・質的金融緩和とは無関係の要素も寄与しています。実質民間需要や完全失業率を見れば、回復は民主党政権時から始まっており、クルーグマンがQQEの効果を過大評価していることをは明らかです。「自分は常に正しい」というバイアスからalt-factしか見えなくなっているようです。*4

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企業の資金余剰も解消していません。

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QQEとは主に銀行が保有する無リスク資産(国債)を別の無リスク資産(日銀当座預金)に置き換えることなので、ゼロ金利になった時点で「緩和」は限界であり、超過準備を増やしても「緩和」にはなりません*5。なので、マーケット参加者の思惑には影響を与えたとしても、資産効果を除くと実体経済にはほとんど影響しなくて当然です。

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根本的に誤っているクルーグマンのモデルですが、これがある意味無敵なのは、効果が上がらないことが自動的に「中央銀行が本気になっていないからマネタリーベース増加がpermanentではなくtemporaryと受け止められる」となるためです。モデルが間違っているのではなく、本気で無責任にならない中央銀行が間違っていることになるのです。

ケインズは『一般理論』の最後に

Practical men, who believe themselves to be quite exempt from any intellectual influences, are usually the slaves of some defunct economist. Madmen in authority, who hear voices in the air, are distilling their frenzy from some academic scribbler of a few years back.

と書いていましたが、"defunct economist","academic scribbler"がクルーグマン(さすがはフェイクニュース大賞)、"madmen in authority"がリフレ派の日銀総裁・副総裁・審議委員です。*6*7

下線部を「銀行は中央銀行から供給されたマネタリーベースを貸出に回す」に置き換えれば、クルーグマンのアドバイスは「クルーグマンには耳を貸さない」ことになります。

経済政策を売り歩く人々―エコノミストのセンスとナンセンス (ちくま学芸文庫)

経済政策を売り歩く人々―エコノミストのセンスとナンセンス (ちくま学芸文庫)

もし誰かが「アメリカが、今日の世界経済で競争に勝つためには高い生産性が必要である」というようなことを唱えようものなら、その人が誰であろうと、またいかにもっともらしく聞こえようとも、耳を貸さないことである。その人は「私は、自分が何をしゃべっているのかわかっていません」と書かれたピカピカのネオンサインを身にまとっているようなものだからである。

クルーグマンは財政政策にも言及していますが、それこそが本筋であることはケインズが1933年末に「ルーズベルト大統領への公開書簡」で主張しています。*8

政府主導による大規模な公債支出を強く求める。

「回復」の初期段階における主要な原動力として、租税を通じての既存所得からの単なる移転ではない、公債によって資金調達された政府支出の購買力の圧倒的な力を、私は強調したい。

ただし、これは対症療法であり、原因療法としては「国家的自給」での提案が日本にも当てはまります。詳しくは別記事に回しますが、参考にグラフを掲載しておきます。

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totb.hatenablog.com

totb.hatenablog.com

*1:強調は引用者、以下同。

*2:AがX銀行の口座からBのY銀行の口座に1送金する場合、X銀行の資産の預金と負債の中銀預金が1減少し、Y銀行の資産の預金と負債の中銀預金が1増加する。または、AがX銀行の口座から現金を1引き出してBに渡し、BがYB銀行の口座に預けても同じことになる。

*3:日本の長期停滞は、①企業の資金需要にレジームチェンジが起きて恒常的資金余剰となった、②政府がプライマリーバランスの黒字化に縛られているため、民間の資金需要の減退を補って余るだけの国債発行→財政出動ができないことによるもの。

*4:就業者の急増は「団塊の世代」が65歳に達したことによるものと考えられる。

*5:マイナス金利は逆に引き締めになる。

*6:就任前に「2年で2%インフレを達成できなければ責任を取って辞任する」と言っていた岩田規久男副総裁は、5年間で1億2千万円以上の報酬をゲットして退任します。

*7:原田泰は「公共事業を減らせばGDPが増える」と主張していました。

*8:銀行預金は誰かが借りることで創造されるので、民間の借入意欲が減退している状況では、政府が借りない限り増えません。