Think outside the box

夏眠中|I shall return.

[紹介]財政黒字は"bad idea"

6年前に信用創造に関してクルーグマンと論争した経済学者のキーンが、財政収支の黒字化は"bad idea"だと指摘しています。

… a government in a country which has its own currency, and which is running a trade surplus, can sustain virtually any level of government debt. There are no practical limitations on its ability to do so, since everyone in that country accepts government money. The only dangers are the consequences—causing too high a level of inflation, or creating a trade deficit through too high a level of aggregate demand. 

参考となるグラフです。

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Can We Avoid Another Financial Crisis? (The Future of Capitalism)

Can We Avoid Another Financial Crisis? (The Future of Capitalism)

付録① 

キーンとクルーグマンの論争の経緯は下の記事が参考になります。

クルーグマンは未だに「中央銀行のマネタリーベース供給が起点となって銀行が預金を創造する」と思い込んでいます。

totb.hatenablog.com

付録② 

民間(企業や個人)と政府(国家)は鵜と鵜匠に例えられます。

鵜と鵜匠は負債を魚で返済するとします。

個々の鵜には魚を取り損なって返済不能になる(⇔貸倒れになる)リスクがありますが、鵜匠は鵜軍団全体から魚を徴収できる(→リスク分散)ので、伝染病などによって鵜たちが同時に活動不能に陥らない限りはリスクフリーと見なせます。

同様に、政府も戦争によって生産能力が破壊されたり、徴税力が損なわれたりしない限りはリスクフリーと見なせます。政府に対する信用を支えているのは国全体の供給力なので、国債残高が増えること自体は発行の支障にはなりません。*1

国債発行を制約するのは「経済全体の供給余力」であり、それは経常収支やインフレ率→国債金利→利払費によって示されます。*2

上のグラフは、経済活動が冷えた状態にあり、国債発行・財政出動による「加熱」をしてもすぐには過熱しないことを示唆しています。

付録③

残念ですが、日本と中国では為政者の器が違いすぎます。*3

当時の世論では、高速道路建設はすべて利権まみれの赤字垂れ流し公共事業で、建設中止こそ正義という空気だった。

犯人は大マスコミが作り出した世論だ。15年前の「高速道路悪玉論」という世論が、新東名を狭めさせたのだ。

猪瀬:ちょっと待て。なぜ僕が当時4車線でいいと言ったか、その意味を理解してるか? たとえば4車線にすれば、トンネルの建設コストを半分にできるからだ。

すばらしい都市の建設のために多くの資材や技術などの資源を用いる代わりに、彼らはスラムを建設した。彼らがスラムの建設を正しく望ましいと考えたのは、個別事業の評価基準からみると、その方が「ペイ」するからである。これに対して、すばらしい都市の建設は、金融界の慣用句で言う「将来を抵当に入れる」ようなばかげた贅沢と考えられたのである。*4

われわれは貧しくなければならない。なぜならば豊かになることは「ペイ」しないからである。われわれは粗末な家に住まなければならない。それは立派な家を建てられないからではなく、その余裕がないからである。*5

日本国内のインフラ投資は「ペイ」しない(もったいない)ので、代わりに輸出に注力します。外国を豊かにして日本を貧しくするのが国策です。

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*1:これは歴史的経緯に基づいた原理的な説明で、現代ではプラスαの要素もあります。

*2:財政赤字対策としてインフラ投資を削減(→経済の供給力の低下)することは愚策だということ。

*3:国民が「スラムの建設を正しく望ましいと考えた」から政治家もその通りに実行しただけとも言えますが。

*4:「国家的自給」より

*5:[引用者注]これは資本ストックに関してですが、過去20年間の日本では同じ理屈で人への支出=賃金が削減されています。日本国内への投資や賃上げは「ペイ」しない(もったいない)から、日本人はフローもストックも貧しくなければならないのです。