Think outside the box

夏眠中|I shall return.

「国の借金」の正しい恐れ方

日本がいつまでたっても「財政破綻」しない理由について考察します。

財政破綻するのは、残高ではなく、単年度の赤字なのだ。ストックではなくフローなのだ。

財政破綻とは、ギリシャでもそうであるように、利子が払えない、新しく借り換えができない、つまり、フローのカネがなくなるか、または借り換えで新たに借金できなくなることによるものである。というか、それが破綻の定義だ。

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政府(国家)には民間には無い二つの特殊性があります。*1

  1. 信用リスクを無視できる(リスクフリー)*2
  2. 寿命が無い(ゴーイングコンサーン*3

1つ目ですが、政府と民間は鵜匠と鵜に例えられます(二つ前の記事から再掲)。

鵜と鵜匠は借入金を魚で返済するとします。

個々の鵜には魚を取り損なって返済不能になる(⇔貸倒れになる)リスクがありますが、鵜匠は鵜の群れ全体から魚を徴収できる(→リスク分散)ので、伝染病が広がったり、鵜が反抗して魚の供出を拒否したりしない限りはリスクフリーと見なせます。

同様に、民間には投資判断の誤りや失業等のリスクがあるので、借入金が増えると信用リスクも高まりますが、政府は戦争で生産能力が壊滅したり、内乱で徴税力が損なわれたりしない限りはリスクフリーと見なせます。国債償還の源であり、政府に対する信用を支えているのは国全体の財・サービスの供給力なので、小幡が指摘するように、国債のストックが増えること自体は「財政危機」を意味しません。

2つ目は、政府が永久に借り続けられることを意味します。細胞が新陳代謝するように、国債も償還→借換によって銘柄を入れ替えることで、残高の維持・増大が可能です。

この二つの特殊性のために、政府は「元本は完済せずに利息は確実に払い続ける」、貸し手にとっては理想の借り手になっています*4。貸し手から見て重要なのは利払いの持続可能性で、国債残高が増えること自体は問題にはなりません。

国債残高に原理的な上限はないものの、経済全体の供給力には(短期的には)上限があります。なので、国債増発→財政支出拡大によってクラウディングアウトが起きれば、そこが現実的な発行限度となります。限界に達したことは、インフレ率と金利の上昇(→利払費の雪だるま式増大)や経常収支の赤字拡大によって示されます。

これらの経済指標は「国債増発→財政出動」の余地があることを示しているにもかかわらず、

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政府はプライマリーバランス黒字化に突き進み、多くの国民も「緊縮財政≒無駄の削減」と支持しています。

日本経済「余命3年」 <徹底討論>財政危機をどう乗り越えるか

日本経済「余命3年」 <徹底討論>財政危機をどう乗り越えるか

竹中 じつはプライマリーバランスという考え方は、2001年に「骨太の方針」で私が持ち込むまで、政府内にはありませんでした。だから当初、私が議論を始めても、誰も意味を理解できませんでした。*5

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そもそも巨額の財政赤字の原因は、企業が資金余剰を続けていることなので、財政再建を家計増税で達成しようとするのは筋違いです。法人税減税で強き(グローバル投資家)を助け、消費税増税で弱き(一般国民)を挫くから、内需が細って経済の停滞が続いているのです。

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バーナンキは1999年に"Japanese Monetary Policy: A Case of Self-Induced Paralysis?"で日本銀行を厳しく批判しましたが、日本を麻痺させていたのは金融政策ではなく財政政策だったということです。*6

金融市場参加者と最近話すと、「リフレ派の主張が破綻したことは明らかなのだから、政府・日銀はその総括をここで行うべきではないか。それを曖昧にしたままで次の5年の金融政策を進めてよいのか」との声を多数耳にする。

参考①

普通国債残高は昭和58年度末に100兆円を超えましたが、日本は破産していません。

現在、国債が82兆円出て、地方債も40兆円近い。国民1人当たりの勘定にすると、赤ん坊まで入れて約100万円の借金があり、3人家族なら300万円の計算になる。こんなことは欧米諸国にも例がないし、ましてわが国でも、太平洋戦争のときの水準を超えている。

このまま、手をこまぬいていたなら国債発行残高が100兆円を超すのは時間の問題で、日本は59年度までに破産してしまう。

参考②

企業と政府の投資削減は、日本経済の供給力を抑制して財政破綻を招き寄せていることを意味します。恐れるべきは国の借金の大きさではなく投資不足です。 

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その成果が「日本の一人負け」です。

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参考③

アメリカの連邦政府債務(Total Public Debt)

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*1:ここでは中央銀行によるマネタイズは考慮しない。

*2:そのため、マーケットがリスクオンになると「質への逃避」で国債金利が低下する。

*3:企業もゴーイングコンサーンを前提としていますが、現実には「不死」とは言えません。東京商工リサーチによると、2017年に倒産した企業の平均寿命は23.5年でした。

*4:だから消費者金融やクレジットカード会社はリボルビング払いさせたがる。

*5:[引用者注]誰も意味を理解できなかったのは、プライマリーバランスという考え方に意味がないからでは?

*6:正確に言うと、企業を資金不足から資金余剰に変えたものこそ麻痺の根本原因であり、それは「株式利益最大化+グローバル化」です。