Think outside the box

夏眠中|I shall return.

日本人労働者が恐れる「卑怯な日本企業」~ヤングレポートと伊藤レポート

過去20数年間、政財界が進めてきた「雇用改革」が、労働者を安上がりに使い倒すことを目的としていたことはほぼ明らかで、実際、日本は労働生産性が上昇しても賃金が上昇しないために単位労働コストが大幅に低下した唯一の国となっています。 

f:id:prof_nemuro:20180318222436p:plain

企業の労働者の扱いは「一銭五厘」を想起させますが、日本軍が人命軽視になったのも「合理的」だったからということです。

戦局悪化の中で、「対米戦法」は当初の火力戦法から夜間斬り込み戦法へと転換していった。それはもちろん米軍の圧倒的火力という現実に強制された結果であった。

この兵士を一個の「地雷」視する発想は、1945年1月に台湾軍司令部の市川なる参謀が「敵の長所を封じ短所に乗ずる為、在来の慣用戦法より蝉脱して必勝不敗の戦法を案出訓練する」ために作ったマニュアル『対米軍戦闘必勝虎の巻』にも見いだせる。

結局この戦法は人間の地雷を各所に埋めてあると思えば間違いはない。[中略]全員特攻隊の精神を以て敢闘すべきであって[後略]*1

日本軍はアメリカ軍に比べて「鉄量」では圧倒的に劣るものの、兵士の数ではそれほどの差はありません。経済学的に表現すると、資本に比べて労働が相対的に豊富だったため、労働集約的な戦法が合理的になったわけです。

現代の日本企業も、生産力を増強する機械・設備とコンピュータソフトウェアへの投資の抑制を続けているため、アメリカとの差は拡大する一方です。

f:id:prof_nemuro:20180319221143p:plain

日本企業がその代わりに投入を増やしているのが女の労働力です。

f:id:prof_nemuro:20180319221048p:plain

「資本から労働」への転換は1997年の金融危機後に顕著になり、資本装備率*2を低下させる一方で、女と退職者と外国人を戦争末期のように「動員」することで、利益率を高度成長期の水準にまで向上させています。

f:id:prof_nemuro:20180318222630p:plain

f:id:prof_nemuro:20180318232907p:plain

しかし、生産年齢人口が減少し続ける以上、この戦略が遅かれ早かれ行き詰ることは自明です。*3

f:id:prof_nemuro:20180318231036p:plain

なぜ日本企業がこのような非合理的な戦略を取ったのかですが、その主因と考えられるのが資本コストです。

1985年にアメリカの大統領諮問委員会が発表した報告書"Global Competition-The New Reality-"(通称「ヤング・レポート」)では、アメリカ企業の競争力低下の一因として高い資本コストが挙げられていました。技術力があっても高い資本コストのために積極投資が妨げられれば、競争力が低下して当然です。

The commission investigated the reasons for the low level of U.S. investment by asking for testimony from a wide range of economists. To our great surprise, they were in agreement. The consensus of their opinion was that high capital costs are a competitive disadvantage for American firms. In fact, compared with Japanese costs, American capital costs are at least twice as high. This disparity in costs hurts the ability of U.S. firms to compete. In fact, studies have concluded that lower capital costs—not technological supremacy—were the prime factor behind the Japanese incursion into the U.S. semiconductor industry. *4

ヤングレポートは低い資本コストが日本企業の強い競争力の一因と分析していたわけですが、経済産業省の「伊藤レポート」では、高い資本コストを上回るROEを求めています。

個々の企業の資本コストの水準は異なるが、グローバルな投資家から認められるにはまずは第一ステップとして、最低限8%を上回るROE を達成することに各企業はコミットすべきである。もちろん、それはあくまでも「最低限」であり、8%を上回ったら、また上回っている企業は、より高い水準を目指すべきである。

株主は、内部留保が資本コストを上回るパフォーマンスをあげることを「期待」しているのである。内部留保とは「期待」の象徴であり、その使い方は期待を満たすか裏切るかの、経営者の経営能力を試すリトマス試験紙なのである。

閣議決定された「未来投資戦略」でも、ROAの引き上げを求めています。

大企業(TOPIX500)のROA について、2025 年までに欧米企業に遜色のない水準を目指す。

大企業が高いROEROAを目指していることは、下のグラフからも見て取れます。

f:id:prof_nemuro:20180305232558p:plain

高い資本コストを上回るためには、省力化投資によって労働を資本に代替するのではなく、その逆の低賃金労働力依存が合理的になります。

日本の政財界はグローバル投資家(株主)の「期待」を満たすために、

  • 資本コストを高めて設備投資を抑制する(→対外直接投資は激増→空洞化)
  • 低賃金労働力として女・退職者・外国人を動員する(→総人件費抑制)
  • 配当金を激増させる

などを「日本再興」「日本を取り戻す」と称して推進しているわけです。そこには人口減少社会において国民の生活水準を維持・向上させるという観念はありません。

f:id:prof_nemuro:20180310234540p:plain

f:id:prof_nemuro:20180319222519p:plain

アメリカは日本に「高い資本コストを上回るROEを目指す」という(経済学的に正しい)新たなルール=グローバルスタンダードを受容させることで、労使一丸となってアメリカ企業を脅かしていた日本企業を、グローバル投資家の利益最大化のために日本人労働者を酷使する代理人へと改造することに成功したのです。 

幻滅 〔外国人社会学者が見た戦後日本70年〕

幻滅 〔外国人社会学者が見た戦後日本70年〕

官庁、大企業が社費で、毎年、新社員の一番優秀な人を幾人か、ときどきはヨーロッパだが主として米国へ、MBAや経済学・政治学修士・博士号をとりに送られた人が大勢いた。

その「洗脳世代」の人たちが、いよいよ八十年代に課長・局長レベルになり、日本社会のアメリカ化に大いに貢献できるようになったというわけだ。

株主の「日本を変えろ」の要求に唯唯諾諾と応じているうちに、「株主栄えて国滅ぶ」ことになっているでしょう。人口動態を考慮すると、今度の敗戦(オウンゴール)から立ち直ることは難しそうです。

f:id:prof_nemuro:20180320005842p:plain

*1:この箇所は『虎の巻』からの引用。

*2:人員1人当たり有形固定資産(土地と建設仮勘定を除く)

*3:だから政財界は外国人労働者(現代の朝鮮人徴用工)を増やそうとしている。

*4:強調は引用者。