Think outside the box

夏眠中|I shall return.

日本の経営者は「有能」

デービッド・アトキンソンが日本の経営者を「奇跡的とも言えるほど無能」と酷評していますが、果たしてそうでしょうか。

以下、「日本の経営者は有能」であることをディベート的に論証します。

「日本がこの二十数年間、経済成長で他国に置いてきぼり」をくらったことについてのアトキンソンの分析は的確です。

そして、価格を引き下げるために社員の所得を減らすという暴挙に手を染める一方、企業としての利益を着々と貯め込んだのです。利益は増えているのにGDPが増えていないということは、経営者は社員の給料を削って利益を増やしたということです。その一部は外資系投資家に渡っていることを考えると、文字どおりの売国行為」と言えるでしょう。

経営戦略としてこれ以上悪質なものはなく、その結果、日本経済をデフレという底なし沼に引きずり込んでしまったのです。 

しかし、アトキンソンが誤解しているのは、企業の目的あるいは社会的責任は「株主利益の最大化」であって日本経済の成長ではないことです(フリードマン・ドクトリン)。*1 

資本主義と自由 (日経BPクラシックス)

資本主義と自由 (日経BPクラシックス)

市場経済において企業が負うべき社会的責任は、公正かつ自由でオープンな競争を行うというルールを守り、資源を有効活用して利潤追求のための事業活動に専念することだ。これが、企業に課せられたただ一つの社会的責任である。

企業経営者の使命は株主利益の最大化であり、それ以外の社会的責任を引き受ける傾向が強まることほど、自由社会にとって危険なことはない。

人件費を最小化して従業員を一心不乱に全力で働かせることは当然であり、目的合理的経営の結果として日本経済がデフレに転落したとしても、それは企業の責任ではありません。*2

資本主義の企業は、株主に最大の利益(配当)をもたらすことを以て、その目的とする。

コストを最小にするのが目的である。

労働者は、行動的禁欲の下、ただ一心不乱、与えられた仕事に全力を投入しなければならない。

そうでなければ、企業は利潤を最大にできない(目的合理的経営ができない)。 

宮内オリックス社長(当時)が言っていたように、企業は「株主にどれだけ報いるか」であって「雇用や国のあり方まで経営者が考える必要はない」、というより、考えてはいけないのです。「国賊」こそ正しい経営者のあり方です。*3

失われた〈20年〉

失われた〈20年〉

「企業は、株主にどれだけ報いるかだ。雇用や国のあり方まで経営者が考える必要はない」

「それはあなた、国賊だ。我々はそんな気持ちで経営をやってきたんじゃない」

94年2月25日、千葉県浦安市舞浜の高級ホテル「ヒルトン東京ベイ」。大手企業のトップら14人が新しい日本型経営を提案するため、泊まり込みで激しい議論を繰り広げた。論争の中心になったのが「雇用重視」を掲げる新日本製鉄社長の今井敬と、「株主重視」への転換を唱えるオリックス社長の宮内義彦だった。経済界で「今井・宮内論争」と言われる。 

日本経済は金融危機の1997年度から長期停滞に突入しましたが、株主重視に転換した企業は、その間に目的合理的経営によってバブル期を大幅に上回る史上最高の利益と配当金を達成しています。

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「とにかくROEというのが世界共通の企業の成績表なんだ。うちは10%を目指すんだ」と訴えた。

株主にとっては利益や配当の額だけではなく資本/資産効率も重要ですが、この点でも日本の経営者は世界水準の仕事をしています。

経済が停滞する状況で、ROAを高度成長期の水準まで高めています。

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アトキンソンは従業員の給料を削って外人投資家への配当金を増やしたことを「売国行為」と批判していますが、安倍首相が

もはや国境や国籍にこだわる時代は過ぎ去りました。

企業活動の国境をなくす。

私が追い求める日本とは、世界に対してどこまでも、広々と、オープンにつながる日本です。

日本を、能力あふれる外国人の皆さんがもっと活躍しやすい場所にしなければなりません。

外国の企業・人が、最も仕事をしやすい国に、日本は変わっていきます。

と言うように、時代は「内外無差別/非・日本第一」であり、日本人と外国人を対立させることは時代錯誤と言わざるを得ません。株主が外国人であれば、外国人への配当金を増やすために日本人従業員の給料を最小化することが企業に求められる「ただ一つの社会的責任」であり、日本の経営者はその使命を十分に果たしています。在日外国人のアトキンソンがracismやxenophobiaを煽る意図は何なのでしょうか。*4

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アトキンソンが強調する「労働生産性の向上が不可欠」も的外れです。企業にとって、労働生産性の向上は株主利益最大化のための手段の一つであり、それ自体が目的ではありません。

労働生産性を向上させる主な手段は、新技術を体化した資本ストックを増やして資本装備率を高めることですが、そのための設備投資には当然コストがかかります。「物をいう道具」のコストパフォーマンスがそれよりも高ければ、技術革新よりも奴隷の入手こそ目的合理的経営となります。

日本の自殺 (1976年)

日本の自殺 (1976年)

いうまでもなく奴隷制の生産活動には致命的欠陥がある。すなわち近代的設備産業と異なり大規模化による効率上昇(スケール・メリット)が望めないことである。生産工程の高速化、高能率化への研究開発を妨げていたのは、「物をいう道具」の優秀さそれ自身である。少なくとも安価に奴隷が入手し得る限り、ちょっとやそっとの技術革新ぐらいでは奴隷のコストパフォーマンスに太刀打ちできる高性能な代替物(機械や家畜など)を提供できるわけがなかった。わが国においても昭和四十年代の中期に人手不足と賃銀上昇が起こって初めて、自動化、省力化、無人化技術が急速に普及したという経緯がある。いずれにせよ本格的な機械の導入はローマ時代よりはるかに下った十九世紀の産業革命まで待たねばならない。

Most famous is perhaps the different choice of technique in printing. […] ; typically, the pressing in China is done by humans, in Europe by a machine.

[…] the industrial revolution occurred in Europe rather than China because European entrepreneurs were eager to adopt machines to cut down on high labour costs. China didn’t “miss” the industrial revolution – it didn’t need it. 

幸いなことに、日本の労働者は、ちょっとやそっとの技術革新くらいでは太刀打ちできないほど優秀です。

日本人の労働者の質は世界的に大変高く評価されており、ランキングは世界第4位です。このランキングは、発表されるたびに上昇しています。

しかし、この優秀な人材を使うための最低賃金」が、国際的に見ると極めて低いのです。 

なので、企業にとっての目的合理的行動は、安価な「奴隷」の供給を増やすように政治に働きかけることになります。

日本経済が停滞に突入してから、非正規雇用と女の雇用者が大幅に増えていますが、その背景には、左派が「自由な働き方」や「女の労働力化」「家族給の廃止」を支持したこともあります。

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世帯を養える賃金を男1人に払う家族給に支えられた 「男性稼ぎ主モデル」こそ、女性差別の根源なのですよ。

正規雇用者の給料を下げて、夫に600万円払っているのなら、夫に300万円、妻に300万円払うようにすれば、納税者も増えます。

バックラッシュ!  なぜジェンダーフリーは叩かれたのか?

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男女共同参画社会は、新自由主義的なベクトルとフェミニズムとの妥協の産物だ」というのは、100パーセント正しいと思います。

ヒットラーの社会革命―1933~39年のナチ・ドイツにおける階級とステイ

ヒットラーの社会革命―1933~39年のナチ・ドイツにおける階級とステイ

「過去の婦人運動は36人の婦人国会議員と数十万のドイツ女性を大都市の路上に狩り出した」と、ある女性の党支持者は書いた。「それは1人の女性を高級官僚にし、数十万の女性を資本主義的経済秩序の賃金奴隷たらしめた。働く権利を奪われている男はいまや約600万もいる。女だけが、安価でいつでも利用できる搾取の対象として、いまなお仕事を見つけることができるのである」。

「今、新卒女子の約半数が非正規労働市場に入るんですよ。これでは先が見えず、子どもなんて産めません。一方、正社員として就職できた女性はハッピーかといえばそうでもない。男並みに働いて疲弊するか、2級労働者として扱われるか。我々世代は、女がこんなに生きづらい社会しかつくれなかったのかと思うと、忸怩たる思いです」

過去20年間の日本において、株主利益を最大化するためには、設備投資よりも「優秀な人材」を安く大量に使うことが合理的であり、そのために、企業経営者は政府と左派の協力を得て女を賃労働に引きずり出すことに注力してきたのです。アトキンソンが主張するように労働生産性向上を目指していたら、内部資金は株主が期待する資本コスト(平均8%)を下回る無駄な投資に費やされて株主利益を損なっていたでしょう。

女と高齢者も払底してきたので、今後は外国から奴隷を調達することになりますが、これも左派が「多文化共生」と熱烈歓迎しています。*5

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以上、日本の経営者が全体として正しい経営判断を行い、唯一の社会的責任である株主利益の最大化を見事に達成したことに疑う余地はありません。無能ではなく十分に有能と評価できます。

アトキンソンは「日本が明るい将来を迎えるには生産性を向上させることが不可欠」と強調していますが、「日本が明るい将来を迎える」ためという全体主義的な大義名分の下に、企業に株主利益の最大化に反する社会的責任を押し付けることほど、自由社会にとって危険なことはないのです。*6*7

totb.hatenablog.com

*1:[同書案内より]竹中平蔵元大臣の補佐官、内閣府参事官として郵政改革を仕上げた高橋洋一氏(東洋大学教授)の解説付き。

*2:リフレ派が日本銀行、最近では財務省を批判しているのは、デフレの原因が企業の株主重視経営(←フリードマン・ドクトリン)であることから国民の目を逸らすためでしょう。

*3:この思想は公的部門にも浸透しています。例えば、財務省は「財政均衡」がすべてであり、国民生活や日本経済がどうなるかまで考える必要はないのです。

*4:グローバル化+株主利益最大化=植民地から収奪するために現地人を搾取すること

*5:2017年に東京新聞のインタビューに「大量の移民の受け入れなど不可能」「客観的に無理、主観的にはやめた方がいい」と話した上野千鶴子は、左派から「排外主義者」「レイシスト」と猛烈に批判されました。左派にとって、上野は「多文化共生を否定する裏切り者」になったからです。

*6:エイプリルフールの記事です。

*7:マルクス主義を採用した国々が経済的に自壊したように、日本はフリードマン・ドクトリンを採用して自壊しつつあります。ケインズが『一般理論』に書いたように、危険なのは既得権益ではなく思想なのです。全学連委員長から新自由主義者に転向した香山健一は、日本が新自由主義によって自殺するとは想像できなかったでしょう。