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[読書]赤川学『少子化問題の社会学』

著者自身が「あとがき」に

少子化問題の社会学

少子化問題の社会学

本書は、筆者が2017年2月に公刊した『これが答えだ! 少子化問題』(ちくま新書)の続編、あるいはスピン・オフというべき書物である。*1

と書いているように、出涸らしのように薄く分析も甘いと言わざるを得ない内容でした。

社会学者は経済に弱い傾向がありますが、この箇所はその典型例です。*2

少子化や人口減少は必ずしも経済成長の鈍化につながるわけではない。近年のアベノミクスが示すように、金融緩和と財政出動による持続的な経済成長は少子化のものでも十分可能であるし、名目成長率2%程度が維持できるならば、現行の年金制度は維持可能となり、一人当たりGDPも将来的には増えていくであろう。*3

アベノミクスの第一の矢の金融緩和とされているものは、主に銀行が保有する無リスク資産の国債を別の無リスク資産の日銀当座預金と交換するものであり、企業や家計が借りやすくなる/銀行が貸しやすくなる「緩和」の効果はありません。第二の矢の財政政策も、消費税率が引き上げられたように、むしろ緊縮方向にあります。

ヨーロッパの出生率については、

パリ、ストックホルム、ロンドンなどの大都市は移民や外国人労働者の比率が高い国際都市であるから、移民の出生率が高いことがその原因と考える人もいるに違いない。しかし移民の出生率が全体の出生率に与える影響はさほど高いものではない(筆者の推計では、スウェーデンで0.1程度の上昇)。*4

と分析していますが、移民の合計出生率(TFR)引き上げ効果が+0.1程度というのは全国のことであり、集中している地域ではそれより高くなるのが当然です。パリの場合はこのような数字(⇩)になっているので、移民の影響を無視することはとてもできません。

フランス全体のおよそ8パーセントがムスリムであり、パリの20歳以下においては45パーセントがムスリムであるとされる。これらの値は今後も増加する一方だろう。

赤川は「女の下降婚」について、

「女性が下降婚を忌避する傾向に生物学的基盤はあるのだろうか」とか、「少子化対策が(奏功しないことは目に見えているにもかかわらず)なぜ一定の方向にバイアスがかかった形でしか実行されないのか」といった問いは、いまだ未解明のままであった。*5

これらの国々をピックアップした上で、

下降婚が三分の一を大きく上回るような社会は、上昇婚や同類婚が少ないといえる。これに該当するのはベネズエラ(45.2%)、ポーランド(38.0%)、スウェーデン(37.0%)、クロアチア(35.4%)、フィンランド(34.8%)、リトアニア(33.3%)、インド(33.1%)などである。ちなみにフランスも30.6%とかなり高い。*6

このように結論していますが、この分析にも問題があります。

筆者は『これ答』において、下降婚の少なさには、女性が自分の子孫を残すための包括適応度を高める進化的基盤がある可能性を示唆した。しかし下降婚を増やした社会、すなわち結婚する男性と女性の学歴が無関係になるような社会は、進化論的基盤さえ打ち破って、少子化を克服する可能性があるということである。*7*8

男女平等(という建前の男のdisempowerment)が進められたヨーロッパ諸国では、女の学歴が男を上回るようになっています。高学歴女にとっては「学歴が同等以上の男」が不足しているから結果的に学歴下降婚が増えるのです。*9

これ(⇩)は日本のデータですが、女にとって重要なのは学歴ではなく経済力です。大学進学率が50%を超えるような国々では、大卒が必ずしも「上≒経済強者」を意味しなくなっていることも重要です。

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北欧諸国で、東欧や東南アジア出身者と国際結婚する男に比べて女が圧倒的に少ないことからも、学歴以外の要素も勘案した総合スペックでの女の下降婚忌避が根強いことは明らかです。*10

優秀な女性が自分以上の男性を探すため、ミスマッチが起こり、晩婚化がますます進んだようです。この女性の経済的自立も離婚率をあげた原因だろうとのことでした。「女性の地位向上、男女平等が進むと少子化が進むのです」とおっしゃったのが印象的でした。*11

“Can you please help me get a wife from India?” was a question asked by a bus driver in Copenhagen, who happened to be a white ethnic Dane.

I asked, “Why a woman from Asia, it is so far away and then there are so many women in Denmark?” He replied, “Look, I am a bus driver, women these days are highly educated and no one wants to marry an uneducated bus driver. Not even a handsome one like me. Time and years are flying by and I want a family.” 

男の出世は離婚につながらないが、女の出世は離婚につながることも、女が「自分より下の男」を忌避することの有力なエビデンスです。*12

Winning an election increases subsequent divorce rates for female candidates but not for men (This paper, like most of the social science literature, focuses on female-male partners.) These divorces are not the exclusive result of hard-fought campaigns. The study examined elections with very narrow margins of victories, in which winning was largely a matter of luck. These “lucky” winners also experienced higher divorce rates.

Corporate success has similar consequences: Women who become chief executives divorce at higher rates than others. 

女の下降婚忌避が強力なのは、人間は「男が妻子のために稼いでくる」ように進化したためと考えられます。

ヒヒは5種(ヒヒ属ではないゲラダヒヒも入れると6種)ほどいるが、すべて一夫多妻か多夫多妻の社会を作る。一方、初期の人類は、あとで述べるように一夫一婦的な社会を作っていた可能性が高い。となれば、初期の人類のオスは、子育てに協力していたのではないだろうか。メスや子に食物を手で持って運ぶために、直立二足歩行をしたのではないだろうか。

人間の犬歯は小さくなっている。この事実は、人類が一夫一妻制かそれに近い社会を作っていたことを、おそらく示している。確実とは言えないが、直立二足歩行が進化した理由としては、現在のところ食料運搬仮説がもっとも可能性の高い仮説と言ってよいだろう。

人間の女は他の動物のように自力では子を養えないため、男に「養わせる」ことにはメリットがありますが、自分が男を「養う」ことは損失にしかなりません。女にとって自分が男を養うことになる下降婚は自分と子供の生存を危うくする自殺行為なので、忌避するようにhard-wiredされているのです。社会学者や経済学者の少子化分析・対策の提言がほとんど無価値なのは、この最重要ファクターを除外したり変えられるものとしているためです。

赤川は「はじめに」に

これから本書が論じようとするのは、現代の日本の言説風景に徘徊する少子化問題に関して、「言ってはいけない」とされる事実やタブーの数々である。*13

と書いていますが、それを期待して読んだ人は期待外れに終わるでしょう。

Most animals behave as they do due to their evolutionary history, and Freeman, like evolutionary psychologists, assumes a model of complex interaction between our own evolutionary history and cultures. Many anthropologists, on the other hand, favor explanations from culture alone.  

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totb.hatenablog.com

*1:p.169

*2:社会学者は「労働供給が増えると賃金が下がる」や「職住分離すると賃労働と家事・育児の両立が困難になるので、夫婦が比較優位に基づいて分業することが効率的になる」ことを理解できず、「男女が賃労働と家事・育児を等しく分担すれば豊かな理想社会が実現する」と妄想する傾向が強い多いようです。

*3:p.71

*4:p.22

*5:p.169

*6:p.17

*7:p.18

*8:強調は引用者、以下同。

*9:Eurostatによると、25~34歳/tertiary educationの男100に対して女はクロアチア160、ポーランド151、リトアニア143、フィンランド140など(2016年)。

*10:2013~2017年にタイ人と国際結婚したデンマーク人の男/女比は63倍、同じくフィリピン33倍、ウクライナ23倍、リトアニア16倍、中国13倍、ロシア12倍など。フィンランドでは、女は英語話者(自分以上)、男はロシア語話者(自分未満)と多く国際結婚する。

*11:杉田議員の主張ではなく、デンマーク有識者の分析です。

*12:このNYTのコラムは、出世した妻が夫を捨てることを「男に問題があるから→男の責任」とした上で、男に反省と変わることを求める意味不明の内容です。

*13:p.9