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20年ぶりの賃上げ率と「アベノミクスという幻想」

4月16日の日本経済新聞1面記事ですが、日本経済にとって必ずしもグッドニュースとは言えない内容です。

一般的には、製造業など技術進歩による労働生産性上昇率の高いセクター(progressive sector)の賃金上昇が、サービス業など労働生産性上昇率の低いセクター(stagnant sector)の賃金を牽引する構図で経済全体の賃金水準が上昇していきます。

ところが、足元で生じているのは、その構図の崩壊です。

大手製造業の賃上げがその他の産業に波及していくという従来の構図が崩れつつある。

人手不足への危機感から賃上げに動いた陸運や小売りなどが押し上げた。

技術進歩→労働生産性上昇による賃金上昇はグッドニュースですが、供給制約によるボトルネック・賃金上昇がグッドニュースとは言えないことは明らかです。

参考に、財務省「法人企業統計(四半期別調査)」から、製造業と陸運業(全規模)の比較です。

1990年代後半から、陸運業の「賃金崩壊」が起こっていますが、その背景には、賃上げの牽引役だった製造業の縮小があります。*1

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労働分配率=人件費/(人件費+営業利益+減価償却費)

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次に、バブル崩壊以降の景気拡大局面を比較します。

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アベノミクスの特徴は、就業者の増加が大きいことです。

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アベノミクス期の就業者1人当たり実質GDP成長率はわずか年率+0.3%です。

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就業者1人当たり実質国内需要成長率はマイナスです。 

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「就業者1人当たり」の成長率が低い原因には、

  • 就業者の増加が生産性上昇率の低い業種(医療・福祉など)に集中
  • 増加した就業者は40歳以上の「老兵」

などが考えられます。*2

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クルーグマンは1994年の「アジアの奇跡という幻想」で注目を集めましたが、

良い経済学 悪い経済学 (日経ビジネス人文庫)

良い経済学 悪い経済学 (日経ビジネス人文庫)

1950年代のソ連がそうであったように、アジアの新興工業国の高度成長も、資源の総動員が最大の要因となっている。経済成長のうち、投入の急速な増加によって説明できる部分を除けば、残りはほとんどない。高度成長期のソ連がそうであったように、アジア諸国の経済成長も、効率性の上昇ではなく、労働、資本など投入の大幅な増加が原動力になっている。

アベノミクスの経済成長も、効率性の上昇ではなく、「老兵」の投入の大幅な増加が原動力になっていると言えます。

この分析も、近年の日本に当てはまります。

最近では、東アジアの新興工業国のなかには、かなりの資本輸出をしている国もある。賃金水準が先進国を大幅に下回っているこれらの国で、生産性が先進国の水準に急速に迫っているとすれば、海外投資は謎としか言いようがない。しかし、東アジア諸国の経済成長が投入主導型であり、資本ストックが増えるにつれて収益が逓減しはじめているとすれば、海外投資も当然の行動として説明がつく。

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20年ぶりの賃上げ率は、アベノミクスの成功と日本復活ではなく、低賃金労働者の大量動員に依存して生産性向上を怠ってきた20年間の路線(資本輸出のための再版農奴制)が限界に達しつつあることを意味しているようです。

totb.hatenablog.com

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*1:これについては別記事で取り上げる予定。

*2:厚生労働省「外国人雇用状況の届出状況」によると、2012年10月末→2017年10月末の5年間で外国人労働者は1.9倍に(+60万人)。