Think outside the box

夏眠中|I shall return.

雨乞いと化すリフレ政策

「2年で2%インフレを達成する」と豪語していた岩田規久男と共に、達成時期も消えてしまいました。

日銀は27日に公表した「経済・物価情勢の展望(展望リポート)」で、黒田東彦総裁の就任以降、記載を続けてきた物価2%目標の達成時期を削除した。

1月のこの箇所が、

今回の物価の見通しを従来の見通しと比べると、概ね不変である。2%程度に達する時期は、2019年度頃になる可能性が高い。

4月はこうなっています。

2019年度までの物価見通しを従来の見通しと比べると、概ね不変である。

「雨乞いを延々と続ける→雨が降る→雨乞いに効果があったことが証明される」と同じ展開になってきました。*1

日本銀行のリフレ政策のおそらく最大の成果は、ファンダメンタル的には根拠のない円高を是正したことです。*2

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1995年の超円高を日米協調介入で是正したように、インパクトのあるイベントによって円買いに傾いたマーケットセンチメントを変えることには成功しました。*3

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しかし、インフレ率上昇はほとんどが円安によるもので、国内経済の好循環によるものではありませんでした。

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野田総務大臣の指摘はおおよそ的確です。

野田氏は金融政策、財政政策、成長戦略の3本の矢からなるアベノミクスによって、急激な円高を止めて結果として円安に誘導できたことは「評価する」としたが、長期国債の大規模購入など13年4月に開始した異次元緩和については「6年も7年も続けていいことではない」と指摘した。

異次元緩和の具体的な弊害としては、実質賃金が伸びていないという「当たり前のことがブレーキになって」肝心の個人消費が伸びていないことや、16年1月に導入されたマイナス金利が「マイナスの副作用として地銀などにダメージを与えている」ことを挙げた。

こちらは27日の閣議後記者会見

本来2%の物価というのは結果であって、賃金が増えて、個人消費が伸び、結果として物価が健全な形で上昇して、それの2%が世界水準的にも望ましいということであったんですが、まずはアコードな数値目標として2%を置いた。それを努力することはよかったんですが、様々な金融政策を重ねていく中で、例えばマイナス金利に関しては、今日も様々な新聞で、農協をはじめとする金融機関が、マイナス金利の圧力によっていろいろ問題を生じているということも、皆さんから報道をいただいているところです。

実質賃金は下落~停滞したままで、

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エンゲル係数も国民生活の貧困化を示しています。

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国債市場は日銀の大量保有とマイナス金利によって歪められています。

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未だに日銀が国債を買い入れて日銀当座預金の超過準備を増やすことを、景気を刺激する「緩和」と誤解している人が少なくないようですが、そうではないことは日本銀行の「決済システムの概要」の解説からも分かることです。

日本銀行は、広く国民の皆さんに利用される日本銀行券(詳しくは、銀行券・貨幣を参照)と、金融機関が利用する日本銀行当座預金という二つの安全で便利な決済手段を提供しています。これらはいずれも中央銀行が提供するという意味で極めて安全な決済手段です。

AがBに現金を用いて1万円支払う場合、

  1. AはX銀行のATMから1万円引き出す(預金が現金に変化)
  2. Aは現金1万円をBに渡す
  3. Bは現金1万円をY銀行のATMに預け入れる(現金が預金に変化)

現金が移動することで銀行預金がX銀行からY銀行に移動します。現金は銀行預金を移動させる手段になっています。

これと同じことを、コンピュータネットワーク上で電子的に行うための手段が日銀当座預金です。日銀当座預金がX銀行からY銀行に移動することで、Aの銀行口座の預金1万円がBの銀行口座に移動します。

銀行は日々の引き出しに備えて店舗やATMに現金を準備していますが、現金準備を必要以上に積み増すことに、資金需要を増やしたり予想インフレ率を高めるリフレーション効果が無いことは自明です。同様に、日銀の当座預金口座に積んでいる当座預金を日々の決済に必要な額以上に増やしても(ブタ積み)、資金需要や予想インフレ率には直接的には影響しません。銀行にとっては「稼がない資産」が増えることなので逆効果です。*4

こんな基本的なことも理解していない人たちが総裁や副総裁や審議委員になって、年収2600万円以上を稼いでいるのです。*5

ちなみに、安倍首相の2013年12月19日のスピーチです。

大企業の業績回復の果実が、国内の中小・小規模企業、そして、その従業員の皆さんに、行き渡らないようであれば、アベノミクスは失敗であると、私は考えています。*6

クルーグマンが元祖リフレ派というべきインフレターゲット論を提唱したのが98年で、山形さんが翻訳紹介しました。

2004年に岩田規久男さん編著で『昭和恐慌の研究』という本が出たんですが、ここに登場している人たちが「原初リフレ派」ということになるようです。昭和恐慌研究会と銘打たれていますが、安達誠司飯田泰之岡田靖片岡剛士、黒木玄、高橋洋一田中秀臣、中村宗悦、野口旭、浜田宏一原田泰、矢野浩一、若田部昌澄といった、今もよく目にするお名前が並んでいます。岩田さんは日銀の副総裁になりましたし、原田さん、片岡さんも日銀の審議委員に就任しました。浜田さんは内閣官房参与ですね。*7

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補足

BISのワーキングペーパー"Unconventional monetary policies: an appraisal"*8より。

リフレ派は"two oft-heard propositions"、すなわち、中央銀行当座預金の超過準備(ブタ積み)を増やすことに景気拡張効果があると信じているわけですが、

… two oft-heard propositions concerning the implications of the specialness of bank reserves. First, an expansion of bank reserves endows banks with additional resources to extend loans, adding power to balance sheet policy. Second, there is something uniquely inflationary about bank reserves financing.

マネーの供給側=銀行に貸出を積極化させる効果はありません。。

…, the level of reserves hardly figures in banks’ lending decisions. The amount of credit outstanding is determined by banks’ willingness to supply loans, based on perceived risk-return trade-offs, and by the demand for those loans. The aggregate availability of bank reserves does not constrain the expansion directly.

…, an expansion of reserves in excess of any requirement does not give banks more resources to expand lending. It only changes the composition of liquid assets of the banking system. Given the very high substitutability between bank reserves and other government assets held for liquidity purposes, the impact can be marginal at best.

マネーの需要側=企業や個人の予想インフレ率を高めて支出を喚起する効果もなかったことも、この5年間で実証されました。

「異次元緩和」はリフレ派のモデルの中でも正しくても、現実には正しくなかったのです。*9

リフレ派は「現実が間違っている」と考えているのかもしれませんが。

*1:労働力不足→賃金上昇や、日本経済の地盤沈下→円安→輸入インフレ、の悪い物価上昇(スタグフレーション)の可能性が高まっています。

*2:ファンダメンタル的には1ドル=80円台後半が限度で、70円台はオーバーシュートでした。

*3:なので、円安の経路による景気刺激効果は生じたものの、製造業が以前のように輸出数量を増やさなくなったために、効果は限定的なものにとどまってしまいました。

*4:ゼロ金利において無リスク資産の日銀当座預金国債を交換することには資金需要を喚起する効果はありませんが、リスク資産の株式ETFREITを買い入れる質的緩和には資産価格上昇の経路での効果があります。これは資産家には恩恵大ですが、庶民にはほとんど恩恵がありません。資産家を対象とした補助金のようなものです。

*5:2016年度の報酬は総裁3512万円、副総裁2775万2千円、審議委員2661万4千円。

*6:強調は引用者。

*7:強調は日銀入りしたメンバー。

*8:by Claudio Borio and Piti Disyatat (2009)

*9:異次元緩和にある程度の景気刺激効果があったことは事実ですが、それはリフレ派が理論的に“証明”した「薬効」ではなく「プラセボ効果」によるものだったということです。所詮「偽薬」なので、完治する前に効果が薄れてきたわけです。なお、日本経済停滞の根本原因は「企業が株主重視経営に転換→人件費抑制&投資の海外シフト」なので、日銀には治療できません。