Think outside the box

MAKE JAPAN GREAT AGAIN

「日本の未来を考える勉強会」の提言では日本の未来は開けない

自由民主党の若手議員が日本経済再生の提言をするとのことですが、診断が誤っているため、これでは根本的な治療にはなりません。

2014年の消費増税は、こうして経済を低迷させ、財政を悪化させ始めているが、その前の1997年の消費増税も、同様の帰結をもたらしている。その結果、我が国の成長率は著しく下落し、GDPは縮小局面に入った。デフレ経済となったのである。結果、税収が大きく落ち込み、赤字国債発行額が一気に20兆円規模で拡大し、財政が激しく悪化。つまり、消費増税によって、財政が悪化したのである。アジア通貨危機がデフレの原因との声がしばしばあるが、その危機はとっくに終了しており「失われた20年」を説明できない。

過去記事で分析済みですが、改めて「失われた20年」について簡単にまとめます。

「失われた20年」の発端は消費増税でもアジア通貨危機でもなく、1997年11月の金融危機が誘発したクレジットクランチと企業のデレバレッジです。非金融法人企業の負債の「貸出+債務証券」は1997年度末から2003年度末にかけて194兆円減少しましたが、これが経済に強烈なデフレ圧力をもたらしました。リチャード・クーが言うところの「バランスシート不況」であり、2008年9月のリーマンショック世界金融危機)後のGreat Recessionも同じ構図です。*1

デフレとバランスシート不況の経済学

デフレとバランスシート不況の経済学

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もっとも、企業のリストラクチャリング(「三つの過剰」の解消)は2002~03年にほぼ完了し、中国経済に牽引された景気拡大局面に移行します。

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しかし、企業業績が大幅に改善しても賃金が連動して上昇しないため、内需主導の経済の好循環が始動しません。つまり、企業業績拡大が賃上げにつながらなくなったことが「失われた20年」の本質なのです。

賃上げはなぜ必要か: 日本経済の誤謬 (筑摩選書)

賃上げはなぜ必要か: 日本経済の誤謬 (筑摩選書)

以前は①企業利潤が上昇後、

  • ②人件費を先導に、③企業純資産、④設備投資の3者がバランスよく上昇していたが、
  • 98年度以降、経験法則が崩れ、優先度が②純資産、③設備投資、④人件費の順になった

企業のリストラクチャリングが本格化した1997~98年には

  • 財価格が下落、サービス価格は横ばいに
  • 人件費が横ばいに
  • 賃金(現金給与総額)が低下
  • 設備投資から金融投資へのシフト(有形固定資産から株式へ)
  • Debtからequityへのシフト
  • 非金融法人企業が資金不足(赤字)から資金余剰(黒字)に転換

など、リストラ完了の2002~03年には

  • サービス/財の相対価格が長期上昇から横ばいに(←賃金抑制)
  • 対外直接投資が増加
  • 付加価値増加のほぼすべてが営業純益*2に回る
  • 配当金が激増
  • 利益率が高度成長期の水準に上昇
  • 主要株主が銀行から外国人投資家に

などの構造変化が生じています。

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これらは、企業(特に大企業)が外来思想の「株主利益の最大化*3」に改宗した(させられた)ことが原因とすれば説明できます。

いつ頃からだろうか、外資投資銀行に促され、あたかも遣唐史のごとく日本企業のトップ達は、ニューヨーク、ボストン、ロンドン、エジンバラなど投資家の集積地を定期的に訪れるようになった。*4

企業が「銀行離れ・株主重視・グローバル経営」にborn again→国内支出を最小化→企業部門が黒字化→その裏返しで政府部門の赤字が拡大、という構図です。

提言のこの箇所(⇩)の前半は事実ですが、それは資本(投資)が海外に流出していることの反映でもあり、日本経済のファンダメンタルズの強さを必ずしも意味しません。

日本は「世界最悪の債務国」なのではなく、「世界最大の債権国」なのだ。日本経済のファンダメンタルズは、依然として世界最高水準にある。

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大航海時代以降、西アフリカには黒人を白人に奴隷として売り飛ばすベニン王国やダホメー王国が栄えましたが、白人=外国人投資家、黒人王国=日本企業、新大陸で酷使される黒人奴隷=日本人、新大陸から輸出される世界商品の銀=資本に相当します。白人と黒人王が自己利益のためにアフリカを荒廃させたように、外国人投資家と大企業が日本人を酷使することでwin-win関係になったために、日本は資本を吸い出されて低開発化される衰退途上国に転落したのです。*5

新書アフリカ史 (講談社現代新書)

新書アフリカ史 (講談社現代新書)

奴隷の取引は、ヨーロッパ人とアフリカの王や首長、一流の商人たちの仕事であった。*6

四世紀にわたる奴隷貿易の時代に、アフリカではヨーロッパ産の安価な金属製品や織物のために地元産業や工芸が衰退し、技術は停滞した。アフリカの低開発化が進み、人種差別が深く根をおろした。*7

なので、日本を衰退から救うためには、白人と黒人王の利潤の源泉である「奴隷貿易」を禁止するしかありません。「日本の未来を考える勉強会」の提言の「思い切った財政出動」では衰退を止められないのです。*8

補足

勉強会の内容には?な点が多々あります。

青木泰樹のリフレ政策の理解は完全に誤っており、政府と中央銀行を統合する「統合政府」の考え方も財政と金融の現実の仕組みからかけ離れた不適切なものです*9。これについては別記事で取り上げる予定です。

中野剛志の講演については下の二つで検証しています。

totb.hatenablog.com

totb.hatenablog.com

totb.hatenablog.com

おまけ

松尾の解説は誤りなので絶対に信じないでください。

*1:1997年度の消費税率引き上げの影響が大きく見えるのは、特別減税廃止と医療費の自己負担増が加わって、計9兆円の負担増になったため。2014年度の引き上げでは景気は減速したものの、破局的な事態には至りませんでした。

*2:営業利益-支払利息等

*3:Milton Friedman Doctrine

*4:「IR狂騒曲」~日本経済新聞(2017年7月20日朝刊)「大機小機」

*5:個人に例えると、技術立国は「手に職/スキルアップして稼ぐ」、観光立国は「体を売って稼ぐ」です。安倍政権が推進する観光立国の裏には国内外の「女衒」がいるのでしょう。

*6:[引用者注]一流の商人=○○○○会議の民間議

*7:[引用者注]「日本では中国産の安価な製品やアメリカの高度なICTのために製造業や情報通信業が衰退し、技術は停滞した」というところでしょうか。

*8:財政出動は、底に穴の開いたバケツに水を注ぐようなものであり、穴を塞がなければ元の木阿弥です。

*9:「統合政府」の考え方に基づいて「政府はマネーのuserではなくissuer」「政府は国債で資金調達していない」などと主張する人がいますが、現実の国庫制度はそのように機能していません。政府も支出のために税や国債発行で銀行預金を調達するuserです。