Think outside the box

夏眠中|I shall return.

サッカーで理解するグローバリゼーション

Jリーグが外国人枠の撤廃に前向きということですが、 

ボスマン判決を契機にグローバル化が進んだサッカーが、経済のグローバル化の影響を知る上で参考になると、エコノミストのBranko Milanovic*1が十年以上前に指摘していました。

At the club level, globalization combined with commercialization thus produces two outcomes: better quality of the game, which is tantamount, in economics, to greater output; and greater concentration of winning clubs, which is tantamount to greater inequality. 

And indeed, differences between national teams, most notably at World Cup games, have steadily decreased.

要約すると、

  • パフォーマンスは全体的にレベルアップ
  • リーグ間・クラブチーム間の格差拡大(寡占化)
  • ナショナルチーム間の格差縮小

です。

サッカー後進国の潜在能力の高い選手がサッカー先進国のクラブで数多くプレーできるようになったことで、後進国はレベルアップした一方で、先進国では外国人に弾き出される選手が増えたため、代表チームのレベルアップが妨げられたことになります。

大不平等――エレファントカーブが予測する未来

大不平等――エレファントカーブが予測する未来

簡単に言えば、最大の勝ち組はアジアの貧困層および中間層で、最大の負け組は豊かな世界の下位中間層だということだ。

ここから明確に読み取れるのは、豊かな世界で最上位と最下位とのギャップが広がっていること、そしてグローバリゼーションが、豊かな国の、すでに暮らしぶりのよかった人たちをさらに厚遇してきたということだ。

現実的ではありませんが、Jリーグのチームがグローバル経営を本格的に目指したらどうなるかを考えてみます。

日本人の体格・身体能力はサッカー向きとは言えないので、国内で日本人を育成するよりも、海外で将来性のありそうな外国人を育成したり、実力のある選手をカネで世界中から掻き集めた方が効率的です。*2

選手が外国人だらけになると一部の地元サポーターが離れる可能性がありますが、ファン層も地元や国内に限る必要はありません。衛星放送やネット配信で海外のファンを獲得できれば、支出増を上回る収入増も可能です。

このような状況が続けば、

  • 日本全体で、日本人選手の層は薄くなる(世界ランキング低下)
  • 一部チームは強くなる
  • 地元のファンは減るが、海外も含めた遠隔地のファンは増える

となることが予想されます。世界中で稼ぐことを目標にするなら、地元の選手やファンにこだわる必要はありません。安倍首相の信条の「もはや国境や国籍にこだわる時代は過ぎ去りました」「日本を、能力にあふれる外国人が、もっと活躍しやすい場所にします」に従って、非効率な地元密着路線を捨てることが合理的です。

クラブチームを企業、ナショナルチームを一国経済に置き換えれば、経済のグローバリゼーションがイメージできます。

グローバルに効率的に稼ぐのであれば、日本国内で日本人労働者を養成したり、研究開発・設備投資するよりも、単位労働コストの低い海外で生産したり、外国企業をM&Aすることが合理的です。つまりは非・日本第一です(⇔America First)。*3

この「非・日本第一」を実現するのがTPPですが、

発効すれば日本の消費者にとっては安い肉や野菜が手に入りやすくなる。企業にとっては海外での投資や取引がやりやすくなる。*4

日本の農業は駆逐され、"Japan as Number One"を担った製造業は海外に軸足を移してしまう可能性が高まります。すっからかんの国になりそうですが、これが安倍首相の「あたかもリセットボタンを押したように、日本を一変させる」の真意なのでしょう。

新しい国へ 美しい国へ 完全版 (文春新書 903)

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Jリーグの原副委員長は

強いリーグを作ることは、強い代表を作ることにつながる。世界からいい選手、強い選手がJリーグに集まってくれれば、日本人のレベルも上がる。

と語ったそうですが、強い企業を作ることは強い日本経済を作ることにはつながらないどころか、貧しい日本人を増やすことになりそうです。

totb.hatenablog.com

一般に貯蓄された資金は地球上のどこに投資するのが最高の資本の限界効率、あるいは利子収入を得ることができるかについて、金銭の収支計算がなされる。しかし、そこでもし資本の所有とその運用者が遠く離れているならば、それは人間関係に災いをもたらし、長期的には金銭計算を無にしてしまうような緊張と敵意を醸成することを経験が示している。  

*1:象カーブで有名。

*2:高校野球では野球留学によって、かつての弱小地域に強豪校が出現しています。

*3:日本の野党は基本的に反・日本第一なので、日本人を豊かにすることを目指す政治勢力が事実上存在しません。

*4:5月18日付日本経済新聞より