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スイスの国民投票で「銀行の信用創造禁止」が否決

10日のスイスの国民投票で、銀行の信用創造(預金通貨の発行)を禁止して中央銀行SNB)がすべてのマネーを発行する通貨制度への変更を求めるVollgeldinitiative(Sovereign money initiative)が否決されました。

Vollgeldinitiativeは松尾〈緩和マネー〉匡が「ひとびとのための貨幣供給システム」

ここで私たちが目指しているのは、欧米の多くの経済学者が提唱している貨幣システム改革です。日本で流通している貨幣(マネー、M2)の金額は約1000兆円ですが、そのおよそ9割は民間銀行が創り出した預金通貨であり、日本銀行券は100兆円にすぎません。つまり、民間の銀行が私的利益のための恣意的な判断で信用貨幣の供給を増減させ、中央銀行がそれをサポートするだけの貨幣システムになっています。これは、銀行に過大な「貨幣発行益」をもたらすとともに、バブル景気とデフレ不況との振幅を大きくしています。実際のところ、日本銀行の「独立性」は幻想であり、それは民間銀行の動きに従属しているのです。

これに代えて、中央銀行が調節可能なもの(マネタリーベース)がマネーの大部分を占め、民主的に選ばれた政府が景気の動向に合わせて、恣意性なく公平にそれを人々に直接的に供給するシステムを実現します。*1

あるいは井上〈ヘリコプターマネー〉智洋が「国民中心の貨幣制度*2」 

ヘリコプターマネー

ヘリコプターマネー

Cレジームの下では例えば、中央銀行のみがお金を創造し、政府を介してそのお金は国民にBIとして給付され、国民はすべての貨幣発行益を直接享受できる。

「貨幣発行益」は、政府や中央銀行などが貨幣を発行することで得られる利益である。例えば、1万円札の発行コストは一枚あたり約20円なので、残りの9980円が日銀の貨幣発行益ということになる。

と称して提案しているものとほぼ同じですが、SNBはこれらを真っ向から否定しています。特に重要なのは、金利操作によってマネーストックをコントロールする効率的な金融政策が行えなくなることです(詳しくは下のリンク先のQ&Aを)。*3

The reform would lead to uncertainty and new risks, and would raise costs for bank customers.

The initiative raises unrealistic expectations, particularly with regard to financial stability and profit derived from the note-issuing privilege (‘seigniorage’).

The initiative would complicate the implementation of monetary policy. Under the current system, the SNB can raise interest rates if monetary policy has become too expansionary. Under a sovereign money system, however, it is unclear how a restrictive monetary policy (i.e. a reduction in the money supply) would be effected. The SNB would hardly be in a position to reclaim money from the Confederation, the cantons or the country’s citizens. 

A sovereign money system would result in a shift from interest rate targeting to monetary targeting. Interest rate targeting is, however, a key component of the monetary policy that the SNB has been pursuing since 2000. A return to monetary targeting would, from the SNB’s point of view, be an unnecessary and regressive step.

ゲーテの『ファウスト』第二部にはファウストメフィストフェレスが「政府紙幣」を大量に発行して帝国の財政難を解消するエピソードが描かれていますが、松尾や井上の提案は、銀行の預金通貨が制度化されていなかったその時代(日本では江戸時代)に戻すようなものです(regressive step)。

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最先端の金融理論を自称するリフレ派が、銀行制度・通貨制度の進化を巻き戻して「預金通貨を発行する銀行を廃止してマネーは『藩札』に一本化しよう」というような恐ろしくアナクロな提案をしているのは興味深いです。*4

totb.hatenablog.com

totb.hatenablog.com

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*1:ひとびとの経済政策研究会「反緊縮経済政策マニフェスト2017(案)」

*2:Citizen-centered Monetary Regime:Cレジー

*3:6ページ目には貨幣発行益(seigniorage)についての解説があります。

*4:通貨制度の実態や進化の歴史を理解していないということでしょう。