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夏眠中|I shall return.

大人が信じてはいけないおカネの「教養」

池上彰が「おカネ」について不正確な解説をしています。

この記事では中央銀行・政府が供給する現金のことを「おカネ」としていますが、現在の通貨システムではマネーストックの大部分は市中銀行が供給する預金です。キャッシュレス化が進んだスウェーデンでは、マネーストック(M2)の98%強が預金で、現金は2%弱に過ぎません。

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スイスの中央銀行SNBのヨルダン総裁も、central bank moneyとcommercial bank moneyの区別が必要と語っています。

When speaking about money, we need to distinguish between various types of money. Especially important with regard to our topic is the distinction between central bank money on the one hand and commercial bank money – i.e. deposits with commercial banks – on the other. The two differ in terms of characteristics and risks, as well as in the way they are created.*1

預金の本質は物(commodity)ではなく信用(credit)です。

In our present-day financial system, the creation of deposits by banks is closely linked to the granting of loans. When a bank provides a loan, it credits the amount in question to the borrower in the form of a deposit to his or her account. This leads to an increase in credits on the assets side and in customer deposits on the liabilities side of the bank’s balance sheet.

Martin sees the current monetary arrangement as basically private credit with sovereign guarantees. 

Money is credit, not a commodity

中央銀行は銀行の信用創造を直接的にはコントロールできないので、マネーストックの量も自由にコントロールできません。また、お札(銀行券)は家計等が銀行の預金口座から引き出さなければ市中に出回らないので、やはり中央銀行は量を自由にコントロールできません。なので、池上のこの解説は不正確です。*2

お札がいったん不換紙幣になると、日銀は、持っている金(きん)の量に関係なく、発行するお札の量を自由にコントロールできるようになります。これを「管理通貨制度」と呼びます。おカネの量を自由にコントロールできるといっても、紙幣を勝手に大量に印刷すれば、インフレ(物価が上がっていく状況)になってしまいます。かといって、紙幣が少なければ、今度は逆にデフレ(物価が下がっていく状況)に。おカネの量のコントロールは、とても難しいのです。

実際、スウェーデンでは現金流通高は減少していますが、デフレになっていません。預金とマネーストックは増え続けているためです。

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「おカネは中央銀行が作るもの」という誤った「教養」は、松尾匡の「日銀の緩和マネーを原資にして財政出動を」という主張にもつながっており、極めて有害です。

ひとことで言うと、財政出動のお金というのは中央銀行(日本の場合は日銀)が金融緩和で「無からつくり出して」いるんですよ。要するに、中央銀行がお金をどんどん刷りまくってばらまいているわけです。

21世紀の貨幣論

21世紀の貨幣論

*1:強調は引用者、以下同。

*2:中央銀行当座預金の量はコントロールできますが、国債の買い入れ等によって当座預金を増やしても、マネーストックを必ず増やせるわけではありません。