Think outside the box

夏眠中|I shall return.

国土強靭化・冗長・無駄・効率

この度の大雨水害では多くの生命と財産が失われ、他地域の暮らし・経済も打撃を受けています。

安倍首相は2013年2月28日に国会の施政方針演説で

経済だけではありません。様々なリスクにさらされる国民の生命と財産を、断固として守る、「強靭な国づくり」も急務です。

旅行で、仕事で、普段何気なく通るトンネルで、その事故は起きました。笹子トンネル事故です。

私の育った時代、高速道路が次々と延びていく姿は、「成長する日本」の象徴でありました。しかし、あの頃できたインフラが、老いつつある。人の命まで奪った現実に、向き合わなければなりません。

命を守るための「国土強靭化」が、焦眉の急です。首都直下地震南海トラフ地震など、大規模な自然災害への備えも急がなければなりません。徹底した防災・減災対策、老朽化対策を進め、国民の安全を守ります。*1

「世界一安心な国」、「世界一安全な国、日本」を創り上げます。 

と宣言していましたが、実質公的固定資本形成は財政再建が政策課題とされた1980年代前半よりも少ない水準に抑えられています。*2

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公共投資に関しては、「国土強靭化」の第二次安倍政権は「コンクリートから人へ」の民主党政権と五十歩百歩ということです。言行不一致と言わざるを得ません。

「国土強靭化」は"National Resilience"と英訳されていますが、resilienceにはredundancy(冗長性)が必要です。

For example, it has often been pointed out that one of the basic tenets of resilience and systems thinking is that too strong an emphasis on efficiency (maximising outputs) can erode resilience through a deliberate reduction in redundancy, where the system may become brittle due to too few links among actors. In governance, an increase in efficiency is often achieved through reduction of redundancy (degree of overlap among institutions and organizations). However, this may at the same time lead to increased vulnerability through failure to address novelties.

しかし、冗長≒無駄(日常感覚的には)でもあるので、効率性や「無駄の削減」を優先する限り、冗長なインフラストラクチャー投資は行えません。*3*4

猪瀬:ちょっと待て。なぜ僕が当時4車線でいいと言ったか、その意味を理解してるか? たとえば4車線にすれば、トンネルの建設コストを半分にできるからだ。 

猪瀬:そのためには、まず道路公団改革の意味をきちんと理解する必要がある。それはつまり必要なところに金をかけるということだ。現状、4車線で交通容量は足りてるんだろう?

猪瀬:とにかく、費用対効果との兼ね合いは絶対に必要だ。

ところで、1974年6月から2001年1月まで存在した国土庁の任務は設置法第三条で

国土庁は、国土を適正に利用することにより健康で文化的な生活環境の確保と国土の均衡ある発展を図り、豊かで住みよい地域社会の形成に寄与するため、国土に関する行政を総合的に推進することをその主たる任務とする。

とされていましたが、国土交通省にはあまり引き継がれていません。日本国民の健康で文化的な生活よりも、外国人観光客に金を落としてもらうことが優先です。

国土交通省は、国土の総合的かつ体系的な利用、開発及び保全、そのための社会資本の整合的な整備、交通政策の推進、観光立国の実現に向けた施策の推進、気象業務の健全な発達並びに海上の安全及び治安の確保を図ることを任務とする。

それを反映してか、公的固定資本形成に占める東京都の割合は高止まりしています。

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公共投資の基準がresilienceよりもefficiency(maximizing output)になったことも、橋本政権以来の構造改革の大きな成果と言えそうです。*5

効率性(B/C)を重視した結果、過少投資が続く日本のインフラを、中国の冗長な高速鉄道ネットワークと比較してください。*6

totb.hatenablog.com

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*1:強調は引用者、以下同。

*2:1980~2017年度の実質公的固定資本形成を少ない順に並べると、2011,2008,20122010,2007,2015201620142017,2006,2009,20131984,1982,1983,1980,・・・,1992,1997,1994,1999,1998,1993,1996,1995となります。

*3:無駄か否かの判断基準が、橋本龍太郎首相の指示で導入された費用便益分析(B/C)。

*4:国鉄道路公団の分割民営化→冗長な投資の抑制

*5:民間企業も公共セクターも、効率性を高めるために冗長性を低下させる「改革」を20年以上続けた結果、日本の経済社会システムはresilienceを失ってボロボロになりつつありますが、それでも日本版大躍進政策は続きます。日本社会は「無駄削減真理教」を国教とする巨大なカルトのようです。

*6:「日本に観光に来た中国人は、日本の素晴らしい社会システムに感動して親日派になるので、観光立国を推進するべき」「観光立国に反対する輩は反日売国奴」と妄想を展開する人がいますが、現実を直視できないところまで心理的に追い込まれた日本人が増えているのでしょう。