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[読書]『21世紀の長期停滞論』

福田慎一の『21世紀の長期停滞論』を読んだので、日本経済に関する部分についてコメントします。

新書863 21世紀の長期停滞論 (平凡社新書)

新書863 21世紀の長期停滞論 (平凡社新書)

自国通貨の円を持つ日本を自国通貨を持たないギリシャなどと同列に扱っているところは「?」ですが、

日本政府の債務残高は、毎年、多額の国債発行が積み重なり、国際的にも歴史的にみても最悪の水準にある。このまま財政赤字を放置すれば、欧州諸国のような財政危機が発生するリスクは高まる。*1

また、近年では、ギリシャ財政問題に端を発した債務危機が、イタリアやスペインといった財政赤字の累積が膨らむ懸念のある他の欧州諸国でも発生し、欧州統一通貨であるユーロの信頼も揺るがす事態へと発展した。日本政府もこのまま財政赤字の累積を放置すれば、財政危機という事態が起こる可能性は現実味を帯びてくる。*2

日本経済の現状の分析は正確です。

通常、収益が増加すれば、企業は規模を拡大させるため、資金余剰を減らし、積極的に設備投資を推進するはずである。このため、設備投資の伸び悩みは資金余剰の蓄積が続いていることは、賃金の伸び悩みと同様に、本当に経済の需要不足が解消されたといえるのかどうかに関して、大きな疑念を呈する材料となっている。*3 

企業が賃上げや設備投資に消極的な理由な一方で、海外投資には積極的な理由として人口減少が挙げられています。

企業部門にとっても、将来の人口の減少や成長鈍化は、生産と販売の両面で日本市場の魅力を低下させる。このため、国内市場の成長に十分な確信が持てなければ、企業は新しい利潤機会を求めて海外事業の拡大を模索する一方で、国内事業を縮小する傾向が強まる。その結果、企業による国内向けの設備投資は伸び悩むことになるのだ。*4

このロイターのコラムと同じ分析です。

少子高齢化に警鐘を鳴らす記事が数多く流れ、日本国内の市場規模が「必ず縮小すると多くの経営者に刷り込まれた」とある大企業の幹部は話す。今は需要が多くても、設備増強が終わったころには、市場は縮小し、せっかくの新設備が無駄になるとの警戒感だ。

人口減少という構造要因が長期停滞の根本原因なら、金融政策では解決できなくて当然であり、その分析は真っ当なのですが、なぜかこれまでに日本経済を破壊してきた規制緩和構造改革、さらには観光立国を復活のカギとして提案しています。

日本経済を復活させる上で、魔法の杖は存在しない。安易な財政支出の拡大や金融緩和に頼ることなく、大きな痛みを伴う規制緩和構造改革も例外としない毅然とした姿勢が、日本経済を長期停滞から救うために求められている。*5

外国人旅行者を日本へ誘致するインバウンドの拡大も重要な施策である。*6

国内市場が縮小するなか、さまざまな外需の取り込み効果は、わが国の成長戦略のなかでも、もっとも優先度が高い施策の一つである。

診断は正確なのに極めて高リスクあるいは「強毒性」の施策を提案するところに疑問を感じざるを得ませんが、この心理は対米英開戦に踏み切った当時の指導者層に通じるところがあるように思えます。

日本はなぜ開戦に踏み切ったか―「両論併記」と「非決定」 (新潮選書)

日本はなぜ開戦に踏み切ったか―「両論併記」と「非決定」 (新潮選書)

確実に国力が低下して行くなかで、状況の好転をひたすら待ち続ける。小役人的に目先のリスクを回避するのに汲々としていた当時の指導者層に、あえて「ジリ貧」を選ぶというような、そんな肝が据わった行動が期待できただろうか。要するに、今後どれだけ続くかわからない緊張感に、彼らは堪えられなかったのである。

アメリカに圧迫されてジリ貧だった昭和16年のように、平成末期の日本経済も人口減少によってジリ貧に追い込まれています。リフレ政策という「魔法の杖」あるいは「神風」を信じられるおめでたい人は別ですが、そうではなく正確に現状認識できる人ほど緊張感に堪えられなくなり、清水の舞台から飛び降りるようなドカ貧政策に飛びついてしまうのではないでしょうか。

橋本治が言うように、日本経済は老いてしまっているのだから、若さを取り戻そうと無理をするよりも、とにかく死なない・生き残ることを目標にした方がよさそうです。

いつまでも若いと思うなよ (新潮新書)

いつまでも若いと思うなよ (新潮新書)

昭和のバブルがはじけた後で、何度「もう右肩上がりの経済成長の時代は終わった」と言われたことか。でも、「右肩上がり」を終わらせてしまうと「ジリ貧」しか待っていない。だから、「右肩上がりの時代は終わったんだ」と思っても、やっぱり「右肩上がり」を望んでしまう。それでアベノミクスがやって来るけれど、アベノミクスの危うさは、やっぱり「時代そのものが老いてしまっていることへの備え」が欠けていることなんじゃないかと、私は思いますね。

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